今回の青春ベストバイは、えびなみつるさんの『星を見に行く――はじめてのスターウォッチング』です。
百武彗星にヘールボップ彗星。
そんな彗星ブームの時代に買った、思い出の天体観測入門書です。
百武彗星とヘール・ボップ彗星
1990年代の中盤というのは、夜空ばかり眺めていたような気がする。
なぜなら、この時期、日本では、ちょっとした彗星ブームがあったからだ。
最初に話題となったのは、1995年(平成7年)12月の百武彗星で、続けて1996年(平成8年)1月、百武第二彗星が発見されて大騒ぎとなった。
この百武第二彗星は、肉眼でも観測できるくらいに明るい彗星で、地球に最接近した3月下旬には、夜空さえ見上げれば何も知らない一般市民にも観測できたくらいである。
当然、多くの素人が、この機会に天体観測家の仲間入りをした。
初めて買った一眼レフカメラを使って、僕が天体写真を始めたのも、もちろん、この時期のことである。
その頃、僕らは、オホーツク海に面した小さな港町で暮らしていて、前年6月に長女が生まれたのを機に、初心者用の一眼レフカメラを買ったばかりだった(初代Canon Kiss)。
まだ新品に近いカメラと三脚を持って、夜な夜な僕らは星の写真を撮りに出かけた。
0歳の娘を置いていくわけにはいかないから、当然ジムニーの後部座席には、何も分からない赤ん坊の娘が一緒である。
田舎町とは言え、市街地はそれなりに明るいから、なるべく中心部を離れて山の中に入った。
その頃は、ジムニーを駆って渓流釣りに熱心な時代だったから、大抵の山道は覚えてしまっていたような気がする。
冬と春との境目のような3月下旬の真夜中に、僕は三脚の上に乗せた一眼レフカメラで彗星の写真を撮った。
当時は、もちろんフィルムカメラだから、その場で写真を確認することはできない。
彗星の見頃な時期に、幾晩か続けて写真を撮りに出かけたのではなかっただろうか。
たくさん撮った中で、何枚かは、まともに彗星が写っている写真があって、それだけで僕は満足していた。
ちょうど一年後となる1997年(平成9年)3月にも、ヘール・ボップ彗星という明るい彗星が来て話題になったけれど、百武彗星のときほどには盛り上がらなかったかもしれない。
百武彗星は、あっという間に地球を通り過ぎていったような印象があるから、ブームとしてちょうど良かったんだろうな。
初心者カップルが天体観測にハマっていく物語
ということで、今回の青春ベストバイは、そんな彗星の時代に買った『星を見に行く――はじめてのスターウォッチング』である(誠文堂新光社)。
えびなみつるの『星を見に行く――はじめてのスターウォッチング』は漫画で描かれた天体観測入門書で、初心者カップルが天体観測にハマっていく様子を通じて、天体観測の基礎を学ぶことができるようになっている。
天文ガイドと言っても小難しくないし、ほのぼのしたカップル・ストーリーと合わせて、読んで楽しい入門書となっていた。
現在では新装版が発売されているらしいけれど、僕が読んでいるのは、もちろん、当時に新刊で買ったものだ(帯には「ヘール・ボップ彗星フェア」と綴られている)。
憧れの田舎暮らしを始めたのも、そもそもアウトドアやネイチャーな趣味に没頭したかったからで、フライフィッシング、ルアーフィッシング、バードウォッチング、スターウォッチング、ネイチャーフォト、アニマルトラッキング、バックパッキング、オートキャンプと、一年中やることが多くて、とにかく遊びに忙しい時期だったような気がする。
仕事も責任ある立場じゃないし、子どもも小さいしで、遊ぶことに集中できた時代が、僕にとって、この1990年代後半という時代だったのかもしれない。
ちなみに、本書が刊行された1995年(平成7年)5月、僕は27歳で、まだ父親にさえなっていなかった(翌6月に長女誕生)。
生活の中心にアウトドアがあったような、そんな20代後半だった。
あれから30年近い時が経つ。
最後に夜空の写真を撮ったのが、いつのことだったのか、それさえも思い出せないくらい昔の話となってしまったけれど、あのときに撮った百武彗星の写真は、今もアルバムの中にちゃんと残されている。
何より、百武彗星は僕の記憶の中で、今も明るく輝き続けているから、あの時代を忘れることは、とてもできそうにないらしい。