E.L.カニグズバーグ「クローディアの秘密」読了。
12歳の少女クローディアは「ただオール5のクローディア・キンケイドがいやになった」という理由で、2つ年下の弟ジェイミーを誘って家出をしてしまう。
貯金はないけれど、計画性に優れているクローディアは、ケチのジェイミーがたくさんの貯金を持っていることを知っていたのだ。
二人はニューヨークのメトロポリタン美術館を隠れ家にして、家出中の生活を楽しむ。
自動販売食堂で食事をしたり、噴水で体を洗ったり、大昔の貴族が殺されたという美術品のベッドで眠ったり。
ある日、とりわけ観覧客の注目を集めている「天使の像」が、本物のミケランジェロの作品かどうかということについて美術館が研究していることを知ったクローディアは、天使の像の秘密を自分たちで解き明かそうと決心する。
天使の像の謎を解明したら、自分はこれまでのクローディアとは違ったクローディアで帰ることができる。
失敗を繰り返しながら、やがてクローディアは、天使の像の謎を解く鍵を見つけて、いよいよ秘密を解き明かそうとするのだが、、、
この物語は、現状に満足できない12歳の少女が、自己変革を求めて旅に出る(つまり家出する)というストーリーなのだが、自分を変える(違う自分になる)ということが果たして具体的にどういうことなのか、それはクローディア自身にも分かっていない。
彼女が望んでいたことは「あたし、このクローディア・キンケイドは、うちに帰った時はちがったクローディアになっていたいの」ということだったのだが、美術館の展示品である「天使の像」の謎を知ったときから、クローディアは「天使の像の謎を解く」という具体的な目標を手にする。
作品中で際立つのは、秘密を重視するクローディアと、経済的な面(つまりお金)を重視するジェイミーとの対比だろう。
同級生とのトランプ賭博でインチキをしながら、ひたすらにお金を貯め続けるジェイミーには、どうして秘密がお金よりも大切なことなのか理解できない。
「高く売れる秘密は高く売ってしまえばいい」と考えるが、クローディアにとって「秘密」は、あくまでの彼女自身の内面の問題だった。
結局のところ、お金よりも大切なものを人間はみな持っているということを暗に示しながら物語は終わるが、こうした結論に至る過程で描かれているのは、もちろん、主人公クローディアの成長である。
家出中にジェイミーが「ぼくたちには良心がないんじゃないかな。ほんとうはホームシックになるはずだろ。おとうさんとおかあさんの育て方がまちがってたんだと思わない? ふたりともこわくはないよね。ほんとはぼくたち、おとうさんたちに会いたくなるはずなんだけどね」と、クローディアに語りかけるシーンがある。
クローディアはホームシックにならないことを自分の成長のように考えるが、彼女が本当に成長していたことに気が付くのは、物語の重要人物であるフランクワイラーおばさんに出会ってからのことだっただろう。
高く売れる秘密を売ってしまわないことについて、クローディアは「それはね、人が秘密をもってたとしても、その人が秘密をもってることをだれも知らないと、そのうちつまらなくなっちゃうからよ。それで、その秘密が何かってことは人に知られたくないけど、せめて秘密をもってることくらい、人に知られたくなるのね」と語っているが、これはまさしく人間の真実のひとつに、クローディアが触れている場面だった。
最後に、秘密とお金の両方を持っているフランクワイラーおばさんは、とても良いことを二人に教えてくれているので、ここに引用しておこう。
「あんた方は勉強すべきよ、もちろん。日によってはうんと勉強しなくちゃいけないわ。でも、日によってはもう内側にはいっているものをたっぷりふくらませて、何にでも触れさせるという日もなくちゃいけないわ。そしてからだの中で感じるのよ。ときにはゆっくり時間をかけて、そうなるのを待ってやらないと、いろんな知識がむやみに積み重なって、からだの中でガタガタさわぎだすでしょうよ。そんな知識では、雑音をだすことはできても、それでほんとうにものを感ずることはできやしないのよ。中身はからっぽなのよ」
書名:クローディアの秘密
著者:E.L.カニグズバーグ
訳者:松永ふみ子
発行:1975/3/25
出版社:岩波少年文庫