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【名作考察】ミヒャエル・エンデ「モモ」時間を節約する者は、他の何かを失っていく

【名作考察】ミヒャエル・エンデ「モモ」時間を節約する者は、他の何かを失っていく

ミヒャエル・エンデ「モモ」読了。

施設から逃げ出してきた浮浪児のモモは、古い円形劇場で暮らし始める。

街の人々は、この小さな女の子と一緒にいることで、心の安定を得られることから、モモの周りにはいつでもたくさんの友人たちがいた。

しかし、あるとき「時間貯蓄銀行」を名乗る「灰色の男たち」が現れ、街の人々に時間を節約して貯蓄することを勧める。

客との会話を楽しんでいた床屋の主人は、一秒でも早く仕事を終わらせるために、事務的に髪を切るようになるといった具合に、時間を倹約する人々は、心の籠った仕事よりも効率的な仕事を大切にするようになり、同時に人々の心は少しずつ荒んでいった。

やがて、人々の心の荒廃の原因が「灰色の男たち」にあることを知ったモモは、大切な秘密を知ってしまったために、灰色の男たちから狙われることになってしまう。

灰色の男たちは、人間の余った時間の中だけで生きることができる人々であり、時間の貯蓄を勧めながら、本当は人間の時間を盗む「時間泥棒」だったのだ。

モモは未来を予測できる不思議なカメに導かれて、時間が逆流する小路を抜け、時間を司る老人が住む「どこにもない家」を訪れて、灰色の男たちと戦う決心をするのだが、、、

本作のテーマは明らかに「効率化」を優先的に考える文明社会への警鐘だ。

浮浪児のモモには時間が無限にあり、街の人々のように一分一秒を倹約する必要なんて何もない。

そんなモモは街の人々に癒しを与え、心の余裕から生み出される平和をもたらしてくれる。

一方で、灰色の男たちにあやつられた街の人々は、豊かな生活と引き換えに次々と時間を奪われていき、暮らしの中から余裕というものを見失っていく。

モモは「ゆとり」の象徴であり、暮らしの中から時間がどんどん奪われていく多忙な現代社会の人々を救うことができる、唯一の存在だったのだ。

我々は時間を一定に流れていくものと考えがちだが、本作では「わずか一時間でも永遠の長さに感じられることもあれば、ほんの一瞬と思えることもあるからです。なぜなら時間とは、生きるということ、そのものだからです」「ほんとうの時間というものは、時計やカレンダーではかれるものではないのです」などといったように、時間の概念を人間の心の中に置き換えることで、真の意味での時間の大切さを説いている。

「節約できる時間」と「節約してはいけない時間」とを間違ってはいけない。

『モモ』はそんなメッセージを残してくれるファンタジー小説である。

人生でいちばん危険なことは、かなえられるはずのない夢が、かなえられてしまうことなんだよ

「人生でいちばん危険なことは、かなえられるはずのない夢が、かなえられてしまうことなんだよ」と語ったのは、「観光ガイドのジジ」だ。

作り話ばかりのデタラメなガイドで観光客から小遣いを集めていたジジは、その日暮らしをしながらも、モモに楽しい物語を語ってくれる、壮大な夢想家だった。

しかし、モモを孤立させようと企む灰色の男たちの陰謀によって、ジジは偉大な創作家として成功してしまい、多忙な毎日を送るようになる。

スケジュールに追われるジジは、やがて夢を語る力さえ失い、使い回しの物語を人々に聞かせるだけの存在へと姿を変えていく。

ジジだけではなく、モモの友人たちはみんな「多忙」という名前のもとに時間を奪われて、心の癒しを与えてくれる女の子と一緒に遊ぶ時間を失っていった。

何かに追われて周りを見る余裕がないときにこそ、自分自身を見つめてみる客観性が、我々には必要なのかもしれない。

書名:モモ
著者:ミヒャエル・エンデ
訳者:大島かおり
発行:2005/6/16
出版社:岩波少年文庫

ABOUT ME
みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。