小沼丹の新刊が出るらしい。
タイトルは『緑色のバス』で、発売日は2024年(令和6年)1月11日。
ずいぶん先の話だけれど、正月の楽しみがひとつ増えた。
「P+D BOOKS」初めての小沼丹
小沼丹『緑色のバス』は、懐かしい昭和文学の復活に取り組む「P+D BOOKS」(小学館)シリーズからの刊行である。
意外だけれど、小学館の「P+D BOOKS」に小沼丹が入るのは、これが初めて。
講談社文芸文庫に大方入ってしまっているからだろうけれど、より安価に、より新しい状態で、小沼丹を読めるというのは、すごくうれしい。
これをきっかけに、小沼丹を続けてほしいなと思う。
『緑色のバス』は、1984年(昭和59年)11月に構想社から刊行された短篇名作選集である。
ラインナップには「バルセロナの書盗」「ペテルブルグの漂民」「ニコデモ」「断崖」「女雛」「黒と白の猫」「懐中時計」「緑色のバス」「ドビン嬢」「エッグ・カップ」「片栗の花」と各時代の作品が並ぶ。
『村のエトランジェ』(1954)から「バルセロナの書盗」「ニコデモ」。
『白孔雀のゐるホテル』(1955)から「ペテルブルグの漂民」。
『不思議なソオダ水』(1960)から「女雛」。
『懐中時計』(1969)から「黒と白の猫」「断崖」「懐中時計」。
『椋鳥日記』(1974)から「緑色のバス」。
『木菟燈籠』(1978)から「ドビン嬢」「エッグ・カップ」。
「片栗の花」は当時書き下ろし作品だったが、後に『福寿草』(1998)に収録された。
巻末に、新保祐司による小沼丹論「想ひ出す精神」が付いている。
じわじわとこみあげる切なくて懐かしいもの
「短篇名作選集」となっているが、表題作「緑色のバス」は短編小説ではない。
長篇紀行『椋鳥日記』の中の一つの章を採りあげたものである。
その作品が、あえて書名となっているからおもしろいと思う。
新刊情報を見て、久しぶりに『椋鳥日記』を読み返してみたら、やっぱり良かった。
『椋鳥日記』は、小沼文学の中で、とりわけ好きな作品のひとつである。
淡々と綴っているのに、無暗に懐かしい感じがしてくる。
じわじわと胸の中に切なくて懐かしいものがこみあげてくる。
こういう作家は、他にいない。
小説とか随筆とか、ジャンルにこだわらずに読めばいいと思う。
小沼文学は小沼文学であり、それ以上でもそれ以下でもないのだから。