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村上春樹「村上朝日堂」夏のビールとVANジャケットのダッフルコート

初めて村上春樹読むって人に「おすすめ、何ですか?」って訊かれたら、とりあえず『村上朝日堂』って答えることにしている(半分は冗談だけど)。

『村上朝日堂』は、1984年に刊行された、村上春樹最初のエッセイ集で、安西水丸さんがイラストを担当していた。

「日刊アルバイトニュース」連載のコラムを書籍化したもので、はっきり言って、どうでもいい話題のことを、村上さんが好き勝手に書き散らしている、といった種類の雑文集だった。

だけど、あの頃、「村上春樹の小説は読まないけれど、エッセイは好き」っていう人は、少なからずいたような気がする。

村上春樹&安西水丸「村上朝日堂」村上春樹&安西水丸「村上朝日堂」

たぶん「村上春樹の小説って都会風でハードボイルドとかなんとか気取ってて好きじゃないけど、エッセイ読んだら意外と気さくな人で見直しちゃった」みたいな感じだったんじゃないかと思う(想像するに)。

初期の村上春樹って、とにかく「都会的でお洒落な小説」っていう文脈で語られることが多かったから、イメージで敬遠されている部分も、結構あったんじゃないだろうか(少なくとも、僕自身がそうだったので)。

そこへいくと、『村上朝日堂』に収録されているエッセイは、どれもリラックスしながら読むことができて楽しい。

例えば、とにかくフリオ・イグレシアスへのジェラシーをぶちまけるだけの「フリオ・イグレシアスのどこが良いのだ!」なんかを読んでいると、村上さんって本当にどうでもいいことをネタにしてエッセイを書く人なんだなあと、意味のない感心すら覚えてしまうほどだ。

もちろん、村上さんらしくて良いエッセイだって収録されている。

村上春樹のトレードマークになっているダッフルコート

ひたすら夏が好きだってことを書いている「夏について」は、村上さんのデビュー作「風の歌を聴け」とか、初期の名作短篇「午後の最後の芝生」なんかを思い出させてくれる名エッセイだ。

夏は大好きだ。太陽がガンガン照りつける夏の午後にショート・パンツ一枚でロックン・ロール聴きながらビールでも飲んでいると、ほんとに幸せだなあと思う。三か月そこそこで夏が終るというのは実に惜しい。できることなら半年ぐらいつづいてほしい。(村上春樹「夏について」)

アーシュラ・K・ル=グィンの「辺境の惑星」とかいうSF小説まで引き合いに出して、夏のことを語り続けているからすごい。

一方で、冬に関するエッセイも、もちろんある。

「ダッフル・コートについて」は、村上さんのトレードマークともなっている(少なくとも80年代はそうだった)ダッフルコートに関するお話。

僕はダッフル・コートというのが好きで、この十三年くらいずっと同じものを着ている。VANジャケット製のチャコール・グレイのもので、買った時は一万五千円だった。それ以来、冬になるとこれで寒風をしのいでいる。(村上春樹「ダッフル・コートについて」)

この時、水丸さんが描いた、村上さんがダッフル・コートを着ているイラストは、あまりに本人にそっくりだったので、以来、ダッフルコートを着て街を歩いていると、すぐに村上春樹だと分かるようになってしまったらしい(嘘かもしれないけど)。

ダッフルコートを着ている村上春樹(安西水丸)ダッフルコートを着ている村上春樹(安西水丸)

それにしても、VANジャケットのダッフルコートというのが、アイビー世代の村上さんらしくていい。

このエッセイが発表されたのが1983年くらいだとしたら、村上さんがダッフルコートを買ったのは1970年頃ということになる。

13年間も着続けられるんだから、VANのダッフルコートというのは、相当に優秀なものだったんだろうな。

村上さんのエッセイに影響されたわけじゃないけれど(少しは影響を受けているけれど)、僕もダッフルコートが好きで、トレンドに関係なくダッフルコートを愛用している。

冬が来るたびにダッフルコートばかり買っていた時期もあったけれど、最近はマーガレット・ハウエルのものを愛用中。

上等のダッフルコートがひとつあると、冬が来ることさえ楽しみになる。

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