文学鑑賞

ロバート・B・パーカー「約束の地」夫婦生活とは何か?

ロバート・B・パーカー「約束の地」あらすじと感想と考察

ロバート・B・パーカー「約束の地」読了。

本作「約束の地」は、1976年(昭和51年)に刊行された、<スペンサーシリーズ>四作目の長編小説である。

この年、著者は44歳だった。

1976年度アメリカ探偵作家クラブ長篇賞受賞。

女性にとっての幸せとは何か?

とにかく、よくしゃべる連中だなあというのが、最初の読後感想である。

アメリカ人は議論好きということなのか、登場人物たちは始終言い争いをしている。

男と女の関係について。

「そうね。わたし、なんだか、この問題にとりつかれ始めているようだわ」「どの問題? その点が、おれが当面している問題の一つなんだ。ゲームのルールはわかっているが、ゲームそのものがどういうゲームなのかわかっていないような気がするんだ」「男と女の関係、じゃないの」「全体か、それとも、きみとおれのこと?」「両方」(ロバート・B・パーカー「約束の地」)

そもそも、私立探偵<スペンサー>のミッションは、失踪した主婦<パム・シェパード>を見つけ出すことだった。

パムは呆気なく見つかるが、スペンサーは、シェパード夫妻が、それぞれに抱え込んでいる大きなトラブルに巻き込まれていく。

物語の大きな筋書きは、このトラブルを解決することなので、この小説は探偵小説であって、ミステリー小説ではない。

ハーヴィの妻パムは、夫や家庭からの束縛を逃れて、見知らぬ男たちとのセックスを楽しむが、ハーヴィは、穏やかな家庭こそ女性の幸福だと信じている。

スペンサーの恋人<スーザン・シルヴァマン>は、スペンサーが「結婚しよう」と言ってくれないことにモヤモヤしているが、スペンサーは、結婚だけが正解ではないと考えている。

男女関係について、それぞれの哲学を有している彼らは、徹底的に議論しなければならないから、この小説は、ほとんど「女性解放運動(ウーマンリブ)」についての論争を著わしたものであるかのようだ。

「遠くの高層建築物のかたまりを見て、感じるのは……なに?……ロマンティックな気持ち? ゆううつ? 興奮? たぶん、興奮ね」「約束」私がいった。「何の?」「すべてだ。遠くから見ている時は、あの建物群は、なにを望んでいるにしろ、すべてを約束してくれる。あのように、空を背景にしていると、清潔な永遠の存在に見える。近くで見ると、まわりに犬の汚物が散らかっている」(ロバート・B・パーカー「約束の地」)

作品タイトルの「約束の地(Promised Land)」は、ハヴィが手がける不動産事業の名称だが、同時に、それは、男と女の関係の最終地点(古くからの因習で言うところの夫婦生活)のことでもあっただろう。

空を背景にしていると、清潔な永遠の存在に見える。

近くで見ると、まわりに犬の汚物が散らかっている。

それが夫婦生活なのだ、と。

渡辺淳一的に考えると『約束の地』は、大人の恋愛小説と言えるのかもしれない。

マッチョな私立探偵スペンサー

際立つのは、私立探偵スペンサーのマッチョぶりである。

結婚を巡って、恋人のスーザンと喧嘩をしたスペンサーは、やり場のない怒りを抱えてスポーツジムへ向かう。

「塩、いるかい?」トレイナーがきいた。私は首を振った。灰色のTシャツが汗で黒くなっている。腕と脚を汗が流れ落ちた。髪がびしょびしょになった。バッグから離れて、壁によりかかった。胸が大きく波打ち、両腕がゴムのように無感覚になっていた。(ロバート・B・パーカー「約束の地」)

普通の私立探偵だったら、酒で紛らわすだろうストレスを、スペンサーは自分の体を徹底的に苛めることで解消しようとしている。

現代的で健康的な私立探偵のスペンサーらしい場面だと思った。

最後に、スーザンの名言をひとつ。

「人生は、ジョン・ウェインの映画じゃないわ」

大人の男と女の関係を考えてみたい人にお勧めの探偵小説だ。

書名:約束の地
著者:ロバート・B・パーカー
発行:1987/04/15
出版社:ハヤカワ文庫

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みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。