那須正幹「それいけズッコケ三人組」読了。
本書「それいけズッコケ三人組」は、1978年(昭和53年)に刊行された短編作品集である。
この年、著者は36歳だった。
なお、初出は、『6年の学習』(学習研究社)1976年(昭和51年)4月号から1977年(昭和52年)3月号で、連載時の作品タイトルは『ずっこけ三銃士』だった。
全50巻の「ズッコケ三人組」シリーズ最初の作品である。
最後はズッコケたっていいじゃないかという明るさ
本書『それいけズッコケ三人組』は、ズッコケ三人組の愛称を持つ小学6年生の男子児童グループを主人公とした児童文学作品である。
「ズッコケ三人組」の名前は、3人で計画したクイズ番組優勝作戦で、最後にズッコケてしまったことに由来している。
「いいじゃないか、ぼくも、きみも、いっしょうけんめいやったんだもの。最後は、すこしズッコケちゃったけどね」「ふふ、ズッコケ仲間だな、おれたち」「モーちゃんだって、最後の問題でズッコケちゃったから、ズッコケ三人組ってところだね」(那須正幹「それいけズッコケ三人組」)
作品中に「ズッコケ三人組」という言葉が登場するのは、第五話「ゆめのゴールデンクイズ」が初めてということになるのだが、一生懸命にやったんだから、最後はズッコケちゃったけど、まあ、いいじゃないかという爽やかな満足感がある。
成果だけを求めるのではなく、生き方そのものを問う意味が、ユーモア溢れる「ズッコケ」という言葉にはあったのではないだろうか。
最初から順番に読んでいくと、気がつくことだが、後半になるほど、作品としての質がこなれてきている。
第1話の「三人組登場」は、登場人物(ハチベエ、ハカセ、モーちゃん)の紹介が中心で、個性的な3人の少年が紹介されているということ以外に、特筆すべき見所はない。
続く第二話「花山駅の決闘」も、本屋さんで万引きしている女子中学生のグループと対決して、悪の道に入り込もうとしていた女子小学生<ミドリ>を救出するという話だが、物語の展開に、さしたる膨らみはない。
ところが、第三話「怪談ヤナギ池」から、突然、ストーリーに深みが出てくる。
これは、クラスで人気の女子児童2人(陽子、由美子)を驚かすために、夜のヤナギ池に誘い出すという話だが、最後に意外な結末で読者を驚かす仕掛けが工夫されている。
「ゆーれいを見せるって、ヤナギ池にほんとうにいるの?」モーちゃんがハチベエにたずねる。「わかってないなあ。ハチベエくんはね。ゆうれいのトリックで荒井さんをおどかそうって、いうんだよ。ね、そうだろ」(那須正幹「それいけズッコケ三人組」)
怪談ネタという夏の風物詩的要素がある上に、かわいい女の子たちが仲間入りするという部分も合わせて、読み応えのある作品となっている。
男の友情物語にも、かわいい女の子はマスト・アイテムだったのだ。
小学6年生の男の子たちのリアル
次の第四話「立石山城探検記」は、本作中で最も優れた作品である。
夏休みの自由研究で、貝塚の発掘調査に出かけた5人組(ズッコケ三人組+女子2人)が、思いがけない事件に巻き込まれてしまう物語だが、貝塚調査から太平洋戦争へと話が飛躍していく展開は、実によく工夫されていて、連載後半から著者のペンも冴えてきたらしいという推測が働く。
「あんたたちは、このあたりが空襲におうたことを知っておりなさるかの? あれはわすれもせん、昭和二十年七月二十日じゃった。タチバナ市だけで二千人、この高野町でも八十人くらいのひとが亡くなった。あの防空壕に避難できたら、そのなかのなん人かは、助かっておったろうにのう」(那須正幹「それいけズッコケ三人組」)
ストーリー展開のおもしろさに加えて、空襲で亡くなった人たちのエピソードなど、少年少女に考えさせるテーマが加わることによって、物語全体に深みが生まれていることは間違いない。
ハチベエの経験する冒険自体は、それほど驚くべきものでもないにしても(途中で予測がついた)、謎の木箱の発見など、物語性を高める仕掛けはさすが。
今回の経験を経て、ハカセが、貝塚の発掘調査をやめて、タチバナ市の空襲について調べてみることを提案するあたりは、少年少女の成長物語といった趣きまで感じさせる。
本書の中から一つの作品を選ぶんだったら、間違いなく「立石山城探検記」だろう。
最後の第五話「ゆめのゴールデンクイズ」は、ズッコケ三人組の結束の強さを物語るエピソード。
クイズ大会で優勝するために、ずる賢さを発揮した3人組だが、土壇場で失敗してしまうところに、物語としての味がある。
さらに、最後の最後に予測していないどんでん返しを用意しているあたり、第四話「立石山城探検記」と同じように、ストーリー展開を読ませる物語に仕上がっていると感じた。
ただし、テーマの盛り込み方では、「立石山城探検記」の方が、やはり良い出来栄えになっていると言えるだろう。
全体に感じたことは、地方都市の団地に住む小学6年生の男の子たちが主人公というところに、1970年代末期(あるいは昭和50年代)のリアリティがあったんだろうなあということである。
寓話や教訓的な児童文学とは違い、等身大の小学6年生を描いた物語なので、話の内容からインチキくささが伝わってこない。
ズルをしてクイズ大会で優勝しようなんていう三人組の発想は、まさしく小学6年生のリアルな姿そのものだ。
仮に、1976年(昭和51年)に小学6年生だった世代だとすると、雑誌発表時の本作の対象読者は、1964年(昭和39年)生まれの人たちということになる。
当時の小学6年生が、今年59歳になるんだと考えると、「ズッコケ三人組」シリーズの歴史の長さが分かるような気がするなあ。
昭和50年代の雰囲気が、リアルに感じられるところも気に入ったポイントである。
書名:それいけズッコケ三人組
著者:那須正幹
発行:1983/12
出版社:ポプラ社文庫