雨の降る静かな月曜日だった。
傘を差して僕たちは早大通りを早稲田大学へと向かった。
村上春樹ライブラリーのカフェ「橙子猫 – Orange Cat」で美味しいコーヒーを飲むために。
こんな読書ルームが自分もほしかった!
村上春樹ライブラリーは、早稲田大学国際文学館の中にある。
月曜日の午前中だったから、もしかすると誰もいないかもしれないと思ったけれど、館内には旅行者らしい人たちの姿が疎らに見えた。
示された順路に従って、館内を一巡する。
最初に現れるのが、奥行きの広いギャラリーラウンジで、長いテーブルの右手に長い書棚がある。
書棚には、これまでに発表された村上春樹の作品が並べられている。
噂によると、すべてが初版本らしい(村上春樹から寄贈されたもの)。
窓側には、翻訳本も並べられている。
静かな雨の日だったから、ここでお気に入りの本をゆっくり読んでもよかったかもしれない。
突き当たりの壁には『羊をめぐる冒険』に出てくる「羊男」のイラストが描かれていた。
椅子に座って、羊男と記念撮影。
ギャラリーラウンジに続いて、広々とした読書スペースがある。
読書好きの人だったら、こんな読書ルームにきっと憧れてしまうだろう。
一人掛けのソファは、読書に没頭するのに良さそうだ。
照明もレコード棚もオシャレで、ソファに座っているだけで幸せな気持ちになることができる。
今回、自分が最も長居した空間は、おそらく、この読書ルームだったに違いない。
人は、なぜ立派な書斎に憧れてしまうのだろうか。
ゴージャスな書斎とは言わないまでも、静かに読書をするためだけの小さな空間がほしい。
一人掛けの椅子とペンダントライト。
それだけあれば、自分だけの読書空間を創ることができるだろうか。
ソファに座って部屋を眺めているだけで、妄想が広がっていく。
まず本を買うのをやめないと、なかなか読書ルームにまで手は回らないだろうな。
読書ルームの片隅には、ジャズ喫茶「ピーターキャット」時代のレコードが展示されていた。
『ザ・ビル・パーキンス・オクテット・オン・ステージ』の裏面には、村上春樹が描いた猫のイラストと「Peter Cat」の文字がある。
オーナー(村上春樹)の思い出が詰まった一枚のレコード。
往年のピーターキャットを再現したお店があったら、きっと楽しいに違いない。
そこには無口で不愛想なマスターがいて、黙々とコーヒーを淹れているのだ。
やがて、読書ルームの隣にあるオーディオスペースを抜けると、入口の総合受付カウンターへと戻る。
カフェへ行くには、階段を下へと降りていかなければならない。
異空間としてのカフェ・オレンジキャット
村上春樹ライブラリーの象徴といえば、吹き抜け構造になっている「階段本棚」だろう。
森山直太朗と友部正人が「こわれてしまった一日」を歌った、あの「階段本棚」だ(引用がマニアックすぎる)。
建築家・隈研吾がデザインした階段書架は確かに豪華だけれど、ここまでくると非現実的な空間となってしまう。
「異界」へと降りていく階段だと思えば、いかにも村上春樹的な空間だと言えないこともない。
階段を降りたところに、カフェ「オレンジキャット」の広々とした空間が広がっていた。
雨の降る月曜日の午前中だったためか、店内にいる客は我々だけだ。
静かなカフェほど贅沢な空間はないし、大学生が淹れてくれる珈琲は、しっかりと美味しい珈琲だった。
こんなカフェがキャンパスの中にある大学生活というのは、いったいどんな大学生活なんだろうか。
もしかすると、自分もカウンターの向こう側にいたかもしれないな。
オリジナルマグでコーヒーが提供されるのもいい。
「橙子猫」と書いて「Orange Cat(オレンジキャット)」と読む。
お土産にひとつほしいと思ったけれど、残念ながら販売はしていなかったらしい。
マグカップ・コレクターらしく我が家の戸棚には、全国各地にあるカフェのマグが並べられているのだ(もう置く場所がないが)。
店内のインテリアは、村上春樹の事務所や自宅で実際に使われていたもので、ハンス・J・ウェグナーの代表作「ザ・チェア」のレプリカもある。
イタリア・トスカーナ州ルッカから輸入された本棚には、フジモトマサルのイラストがデザインされたマグカップが並んでいる。
このマグカップもいいなあ。
隅々まで村上春樹ワールドを堪能できる空間だ。
店内の一部はミュージアムショップ(コーナー)にもなっている。
村上春樹グッズというよりは、安西水丸グッズが中心だが。
自分へのお土産として、水丸さんの「猫マーロウ」のキーホルダーを購入。
途中で入手したチラシやパンフレットを収納するためのクリアホルダーも一緒に買った。
「うさぎおいしーフランス人」のピンバッジも買えばよかったかな。
まとめ│村上春樹ワールドへの誘い
コーヒーを飲んでライブラリーを出ると、雨はすっかりと上がっていた。
眩しい太陽の光が差して、2時間前とはまるで違う世界へ出たかのようだ。
もしかすると、村上春樹ライブラリーは異世界なのかもしれない。
いつもの世界とはどこかが微妙に違っている、ささやかなパラレルワールド。
現実世界から逃避したくなったときには、またここへ来よう。
村上春樹という作家の、不思議な物語の世界の中へ。
早稲田大学 国際文学館 村上春樹ライブラリー
https://www.waseda.jp/culture/wihl/













