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山田太一「異人たちとの夏」真夏の浅草を舞台とした、大人の怪談物語

山田太一「異人たちとの夏」あらすじと感想と考察

山田太一「異人たちとの夏」読了。

本作は、大林宣彦監督、風間杜夫や片岡鶴太郎、秋吉久美子、名取裕子などの出演者で知られる映画『異人たちとの夏』の原作小説である。

あらすじとしては、離婚したばかりで孤独を抱えている中年男性が、12歳の時に亡くした両親と再会するという、ファンタジーめいた家族小説だが、36年前に死んだはずの父と母が、あの頃のままの姿で、あたかも現代社会に実在しているかのように出現する設定がいい。

主人公の原田は人気の脚本家だが、妻(綾子)や一人息子(重樹)との家庭生活がうまくいかなくなって離婚する。

精神的に少し弱っていたところに、仕事仲間であるプロデューサー(間宮)が、離婚したばかりの綾子と交際したいと言い始め、もしかすると二人は離婚前から付き合っていたのではないかと、原田はますます孤独に追い込まれていく。

そんなとき、原田は36年前に交通事故で死んだはずの両親と再会し、懐かしく温かい気持ちに満たされるために、両親の元へと度々訪れるようになる。

同じ頃、原田は、同じマンションで暮らしている女性(ケイ)と性的な関係になり、結婚を意識するようになるが、日に日にやつれていく原田の様子を見て、ケイは二度と両親に会ってはいけないと、強く原田を制止し、ケイの言葉に押された原田は覚悟を決めて、両親に別れを告げる。

最後に三人は真夏の店ですき焼きの鍋を囲むが、父は仲居の女性をつかまえて「こいつはね、姐さん、十二で両親に死なれてさ、苦労したの、よくやったよ、よくやった、えらいよ」などと息子を自慢してみせ、母は「私たちなしで、よく三十六年もやって来たね」と、息子の苦労を労う。

原田の前で消えてゆく瞬間、母は「あんたをね、自慢に思ってるよ」と語りかけ、父は「そうとも。自分をいじめることはねえ。手前で手前を大事にしなくて、誰が大事にするもんか」と、息子に励ましの言葉をかける。

48歳になった息子が、30代のままで現れた両親に勇気づけられ、「行かないで」と子供のように懇願するところは、家族の絆というものの強さを感じさせる名場面だ。

恋仲となったケイは、両親とは二度と会わぬよう原田に警告するが、両親が消えてしまうと、実はケイこそが恐ろしい亡霊であり、両親の幽霊は、むしろ、原田を守るために現われていたのかもしれない。

両親に励まされた原田は、一人息子・茂樹との関係を見つめ直そうと考えるが、このあたりにも、死んだ両親との再会による人生のやり直しのような道が浮かび上がっている。

真夏の浅草を舞台とした、大人の怪談物語の名作だ。

父や母は、無条件に子どもを可愛がることのできる唯一無二の存在である

『異人たちとの夏』と言えば映画が有名で、原作を読んだという人は少ないかもしれないが、本作は文学作品として十分に推薦に値する作品である(第一回山本周五郎賞を受賞している)。

幽霊などというホラーめいた背景設定は、いかにもエンターテイメント小説だが、逃げ場を失った中年男性が、死んだ両親に救いを求めるという部分で、多くの読者の共感を得るのではないか。

父や母というのは、無条件に子どもを可愛がることのできる唯一無二の存在であるという家族観は、時代が変わっても失われてほしくはないものだと思う。

主人公の原田が、本当に厳しい状況に置かれた時に助けに現われたのが死んだ両親だったということを、逆説的に考えると、大人の逃げ場所というのはどこにもないということである。

そういう意味で、大人の厳しさを思い知らされる物語だと思った。

最後の場面で、ケイが恐ろしい亡霊となって現れる場面はトラウマになるので、深夜に一人で読まない方がいい。

書名:異人たちとの夏
著者:山田太一
発行:1991/11/25
出版社:新潮文庫

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みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。