街履きできるサンダルなら、ビルケンシュトックの「アリゾナ」がいい。
理由は、長時間歩き続けても疲れないから。
とことん日常履きできるタフなところも、コスパがいい証拠。
タフでストレスフリーなサンダル
ビルケンシュトックは、ドイツのフットウェアブランドである。
1774年発祥の老舗で、アイコンのサンダルを中心に多くのファンを持つ。
スタジオ・ボイス編集のビルケンシュトック・コンセプトブック『LIFE KNOWLEDGE』(2007)にも、多くのビルケンファンが登場した。
「ビルケンシュトックは、歴史があって、そのうえで自分たちのベーシックをブレずに極めているブランドという印象がありますね。新しいものが出てこないというのもつまらないけれど、昔からある良いものが無くなってしまうのもつまらないですから」(藤原ヒロシ『LIFE KNOWLEDGE』より)
ビルケンシュトックは、時代と一緒に走り続けているスタンダードである。
変わっていないようで変わり続けている。
「90年代の始め、西海岸のコンピューターギーク、つまりオタクのエグい版なんですけれど、そんな人たちが履いているのは決まってビルケンシュトックだった。(略)上下ジャージで、ビルケン履いて、スタバ持って、サンタモニカを闊歩している」(高城剛『LIFE KNOWLEDGE』より)
デジタル黎明期、西海岸のクリエイターたちは、ハードなビジネス・ライフの中で、ビルケンのサンダルをチョイスしたという。
「彼らはリラックスしていないと、生き延びられないから。だからストレスを減らしてくれて、なおかつタフなビルケンを選んだ」(高城剛『LIFE KNOWLEDGE』より)
90年代のデジタルカルチャー最前線において、ビルケンシュトックは、不可欠なライフツールとなっていたのだ。
「初めてビルケンを買ったのは80年代初頭かな。僕は中学の終わりくらいからサーファーだったんですよ。当時、フカシェルというネックレスとレインボーサンダルってサンダルがやたら流行ってて。僕は他人と違う新しい履き物を探していたときに、ビルケンシュトックを買った憶えがあるんです」(高城剛『LIFE KNOWLEDGE』より)
ビルケンシュトックは、日本のファッションシーンの歴史を物語る、ひとつの証人でもある。
「今や定番と言われるビルケンシュトックですけど、20年前に2ストラップのアリゾナとか履いていたら、かなり奇妙だった。それがファッションアイテムとして定番化する、その過程をリアルタイムで見られたのは面白かったですね」(梶原由景『LIFE KNOWLEDGE』より)
それは、ファッションの先駆者たちが切り拓いてきた道だったかもしれない。
モデルのKIKIも、ビルケンシュトックを愛用していた。
「ビルケンシュトックは、長い歴史で培われた履き心地の良さと、現代的な価値観がバランス良くフィットされているシューズブランドですよね。私の今の意識と、非常に近いブランドのひとつだと思っています」(KIKI『LIFE KNOWLEDGE』より)
ビルケンシュトックは、人を魅了するブランドであるとも言える。
一度ファンになると、離れることが難しい。
「一番長く履いているもののひとつがビルケンシュトック。気に入ると浮気はしない。まあ、ラクなんだよね。そこがビルケンシュトックの本質なわけだし」(野村訓市『LIFE KNOWLEDGE』より)
タフでストレスフリー。
そこに、ビルケンシュトックのアイデンティティがある。
「服は時代とともに変わっていっても、常にビルケンは持っている。履きやすさという機能面も素晴らしいのですが、硬派なコンセプトが何より好きです。(略)ビルケンシュトックはコンセプトがはっきりしていて、ブレがない」(大沢伸一『LIFE KNOWLEDGE』より)
時代が変わっても、ビルケンシュトックは変わらなかった。
変わる必要がなかったからだ。
カヒミ・カリィは、ビルケンシュトックの美しさについて語っている。
「ビルケンシュトックにしても、足を大切にするために始まったものが、長い歴史とともに無駄が省かれていき、結果的に美しく見えるんだと思うんです」(カヒミ・カリィ『LIFE KNOWLEDGE』より)
それは、つまり、歴史によって育まれてきた機能美だ。
「ビルケンシュトックは見た目も可愛いし、仕事においてもゆるくなりすぎないデザインなんだな。履き心地や機能性を追求した結果、最低限のフォルムで成り立っているし、時代の空気感などもきちんと取り入れられている」(田中杏子『LIFE KNOWLEDGE』より)
ストイックなまでにシンプルだからこそ、ビルケンシュトックは美しいということだろうか。
ゼロ年代のミニマル・ライフの中を、ビルケンシュトックなしに語ることは難しい。
「実際、”ビルケンシュトックのようなもの” も、世の中にはあるわけですが、完成度ではどうしてもビルケンシュトックにはかなわない。やっぱりモノとしての安心感が違うと思うんです。そこが、いわゆるベーシックというものとも少し違うビルケンシュトックの魅力ですね」(藤原江里奈『LIFE KNOWLEDGE』より)
歴史は、1950年代へと遡る。
1950年頃、カール・ビルケンシュトックは、ひとつの単純な疑問に直面する。人間の足は、爪先にいくにしたがって広がっているのにもかかわらず、なぜ既成のシューズは爪先に行くほど尖っているんだろう? そこで彼が思いついたのが、爪先が広がったフットベッドにストラップをつけた究極にシンプルなサンダルだった。(BIRKENSTOCK JAPAN『LIFE KNOWLEDGE』より)
人間工学を踏まえたデザインは、「人間の時代」に多くの支持を得た。
そんな機能的なシューズがファッションアイテムとして人気を呼ぶようになったのは、70年代のフラワームーブメントの頃。世の中の常識に逆行しているビルケンシュトックのシェイプが、自由を求める若者たちの共感を呼んだ。(BIRKENSTOCK JAPAN『LIFE KNOWLEDGE』より)
それは、70年代にふさわしく、窮屈な革靴から人間の足を解放した時代だった、とも言えるかもしれない。
黒い汚れは成長の過程
ビルケンシュトックのサンダルの履く理由のひとつは、ストレスフリーだから。
とにかく、長時間歩き続けても、不思議なくらい疲れにくい。
コンバースのオールスターよりも、ビルケンのアリゾナの方が、ずっと歩きやすい構造になっているのだ。
真夏の文学散歩にビルケンシュトックは欠かせない。
アスファルトの直線も、急こう配の山道も、ビルケンシュトックが歩きを支えてくれる。
そして、どれだけ歩いても、ビルケンシュトックのサンダルがへたれるということはない。
その気になれば、何十年だって使い込むことができる。
フットベッド(中敷き)の汚れ(黒シミ)は、ビルケンシュトックにとって勲章のようなものだ。
履きこむことで味になる。
一時期、靴下ありでサンダルを履くのが流行ったことがある。
靴下を履くことで、フットベッドは汚れないけれど、ビルケンシュトックのサンダルは、やはり裸足で履きたい。
黒い汚れは、ビルケンシュトックが成長していく過程のひとつなのだ。
かつて、ビルケン・ストアに勤める若い女性スタッフが、履きこんだ自分のサンダルを見せてくれたことがある。
「クリーニングできるけど、どうせすぐに黒くなりますよ(笑)」
どうしてクリーニングする必要があるのだろうと、彼女は思っていたらしい。
ビルケンシュトックの黒い汚れは、真夏の日焼けのようなものだ。
だから、季節のはじめに新しいサンダルを買ったときは、少しだけ恥ずかしい気分になる。
スエードレザーが夏らしいアリゾナは、2025年(令和7年)の街歩き用に買ってきたもの。
ビルケンシュトックのArizona/アリゾナは何十年にも渡り、世代や性別を問わず世界中を魅了してきました。2本のベルトで自由にフィット感を調整できるこのサンダルは、ビルケンシュトックを代表する1足です。アッパー部分には、肌触りが良く高品質なスムースレザーを使用しています。フットベッドには、足の形状を考慮した特製のフットベッドが使用されており、足への負担を軽減してくれます。(ビルケンシュトック「公式オンラインショップ」より)
最初の一足が「アリゾナ」なら、何度もリピートするのも「アリゾナ」である。
廉いとは言わないけれど、贅沢とも思わない。
快適な夏を過ごすための、これは自分への投資なのだ(大袈裟に言えば)。
トープ(もぐら)色は、自分のテーマカラーでもある。
アーバン・リサーチで見つけた「アリゾナ」は、セージ色(セージグリーン)だった。
夏の街歩きには、ニュアンスカラーがちょうどいい。
海へ行くなら白がおすすめ。
2015年(平成27年)に買ったオーチバルとのコラボ・アイテムは、現在も愛用中。
10年間履きこんで、フットベッドは、日焼けした肌のような小麦色へと成長した。
真っ白なストラップは、現在も真っ白のまま(汚さないように気をつけてはいる)。
白いレザーストラップと青いアウトソールのコンビネーションは、やはり、夏の海に似合う。
オーチバルの(白と青の)ボーダーシャツと合わせたら、ちょっとやり過ぎだけれど、間違いなく気分は上がる(海だったらいいか)。
ビルケンシュトックのサンダルは、もはや、真夏の定番である。