「メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン」は、1986年(昭和61年)6月に発売されたエコーズのセカンド・アルバム『HEART EDGE』に収録されている。
SNSに溢れる「僕らの失望と警告」
エコーズの音楽には、未来性というか、将来への暗示性がある。
というようなことを、最近になって考えている。
なぜなら、80年代に作られた楽曲が(とりわけ歌詞が)まったく古臭くなくて、むしろ、2020年代の現代性を反映しているようにさえ思われるからだ。
本作「メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン」は、SOSのサインを送り続ける子どもたちの歌だ。
Baby 崩れかかったビルから
空にはじけて消えた君は
国中のTVに映った
君の顔 誰かに似てた
地球で生きてた証拠を
誰にも気づかれず
駅の伝言板にそっと標して(しるして)
Hey 街中の壁の落書きに
僕らの失望と警告があふれてる
Wait なにげなく通り過ぎる人へ
忙しさのあまり見失ってる To you
ノートのすみに書いた
僕らのシグナル
誰かに見つけてもらいたくて
Hey 街中の壁の落書きに
僕らの失望と警告があふれてる
Wait なにげなく通り過ぎる人へ
忙しさのあまり見失ってる To you
ECHOES「メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン」
時代の移り変わりの中で「駅の伝言板」が消えた代わりに、若者たちはインターネットの中に「地球で生きてた証拠」を標すようになった(主にSNSというツールを使って)。
「街中の壁の落書き」に溢れていた「僕らの失望と警告」は、相変わらずSNS上に溢れている。
そして、そんなメッセージ・サインを通り過ぎていく(スルーしていく)現代の人々も、やっぱり忙しすぎるのだ。
誰かに見つけてもらいたいと必死で送り続けている「僕らのシグナル」。
これは、やはり、現代社会を暗示的に歌った作品だったのではないだろうか。
それとも、時代が何も変わっていないということなのだろうか(80年代から? まさか)。
誰もが「チャーリー・ブラウン」だった?
タイトル「メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン」は、何よりも暗示的だ。
「メモリアル・パーク」は各地にある「記念公園」を意味するもので、固有名詞ではないし、「チャーリー・ブラウン」は、スヌーピーでお馴染みの漫画『ピーナッツ』に登場する主人公の少年である。
「国中のTVに映った」とあるが、果たして、これは、日本国内の歌なのだろうか?
辻仁成とのインタビューで、下村誠も次のように指摘している。
【下村】「でもなんか設定を置くべきイメージってどこにあったの? <最終出口>とか<メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン>とかって日本じゃないでしょう?」【辻】「<最終出口>は、ヒューバート・セルビーJr.の『ブルックリン最終出口』からのヒントもあったしなあ。でもあのレコードは随分けなされたアルバムだったなあ。レコード評なんてケチョンケチョンだったしね」(下村誠「ECHOES タッグ・オブ・ストリート」)
「でもあのレコードは随分けなされたアルバムだったなあ。レコード評なんてケチョンケチョンだったしね」という辻仁成の言葉は、アルバム『ハート・エッジ』の評価を示している。
「俺達と組まないか?」というキャッチフレーズで作成されたファースト・アルバム『WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB』から一転して、このセカンド・アルバムでは、文学的で象徴的なメッセージがずらりと並んでいたから、それもやむを得なかっただろう。
(ちなみに、『ハート・エッジ』のキャッチコピーは「俺達は未来をたくらんでいる」だった)
世間の評価に対し、バンドメンバーの『ハート・エッジ』に対する思い入れは強く、辻仁成は「あれはECHOESのベストアルバムかもしれない」と言う。
【辻】「あの時だけは完璧に離れて自分達だけでやってみたかったから。そう《HEART EDGE》の時だけ須藤さんに詞のチェックしてもらってない。他のはだいたい目を通してもらってるけどね」(下村誠「ECHOES タッグ・オブ・ストリート」)
そして、「メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン」という曲もまた、辻仁成にとっては思い入れの強い曲の一つだったらしい。
【辻】「でも<メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン>とか、<Scrap and Build>とか、名曲がいっぱい入ってるよ」(下村誠「ECHOES タッグ・オブ・ストリート」)
解散直前の1990年(平成2年)12月に発売されたベスト・アルバム『GOLD WATER』を見ると、『HEART EDGE』からは「メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン」だけが収録されている。
「メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン」は、やはりアルバム『ハート・エッジ』を代表する曲であるとともに、エコーズを代表する一曲でもあったのだ。
ちなみに、『GOLD WATER』収録の「メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン」はリミックス・バージョンで、音が整理されている分だけ、オリジナル・バージョンよりも聴きやすい(『GOLD WATER』は優れたベスト・アルバムだ)。
Hey 街中の壁の落書きに
僕らの失望と警告があふれてる
Wait なにげなく通り過ぎる人へ
忙しさのあまり見失ってる To you
ECHOES「メモリアル・パークのチャーリー・ブラウン」
もしかすると、「チャーリー・ブラウン」は、世界中にいるのではないだろうか?
現代社会へうまく順応することができない、不器用な少年たちという姿になって。
つまり、僕たちの誰もが「チャーリー・ブラウン」だったのだ。
そして、「忙しさのあまり見失ってる」のも、また、僕たち自身の姿である。
あれから38年。
もしかすると、SNSに溢れる子どもたちのシグナルは、80年代から届けられた「僕らの失望と警告」だったのかもしれない。