音楽

エコーズ「Good-bye GENTLE LAND」優しい街で「愛されたい」と願う、居場所のない少年少女たち。

今回の青春ベストバイは、エコーズの『Good-bye GENTLE LAND』です。

1987年のCDなのに、まるで現代社会を歌っているかのような、辻仁成の歌詞がおすすめ。

「愛されたいと願っている」現代社会の少年少女たちにも聴いてほしいな。

疎外感を抱える少年少女たちを歌ったエコーズ

20歳のとき、一番好きだったのが浜田省吾で、次に尾崎豊。

この二人は、10代後半の僕の中で絶対的エースだったけれど、あれから35年が経った今、僕が懐かしく聴いているのは、浜省でも尾崎でもない、辻仁成の「ECOES(エコーズ)」だ。

決して現代的評価が高いわけでもないエコーズを、僕はどうして聴いているのだろう?

理由はたぶん二つあって、一つは、辻仁成の書く文学性の高い歌詞がお気に入りだということ。

評論家的な浜省や求道者のような尾崎と違って、エコーズの歌には物語がある。

「ペットショップで働いている大学を出たてのMiss YOKO」が主人公の「Bulldog」や、「ハイスクールの頃はいつもクォーターバックで頭を下げたこともなかったヒーロー」が主人公の「Tonight」など、物語を構築する辻仁成の創造力は、やっぱりすごい。

言葉の一つ一つに、文学的なバックグラウンドが感じられるのだ。

「クリーニングしたいのは 自分のハートさ」「期待してる 夜中のヒッチハイカー」「えんとつはまるで 地球のくわえたばこさ」、、、

思わず笑っちゃいそうな文学的表現が、エコーズの大きな魅力の一つだった。

もう一つ、僕がエコーズを聴く理由は、辻仁成が描く物語の世界観にある。

エコーズの歌の主人公は、基本的に、決して無気力ではないのに、なぜか集団になじむことができず、疎外感を抱えた少年少女たちで、こうした若者が抱える孤独は、35年経った今も、決して古くなってはいない。

むしろ、現代社会ほど、若者たちの疎外感が気になる時代は、かつてなかったんじゃないだろうかとさえ思えるほどだ。

生きづらさを抱えた若者たちとか、居場所のない若者たちとか、まるで現代社会のテーマソングのように聞こえるけれど、それを1980年代に歌っていたのがエコーズだった。

優しい街で、生きにくさを抱えて困惑している若者たち

そんなエコーズの世界観が、最大限に発揮されているのが、1987年に発売された4枚目のアルバム『Good-bye GENTLE LAND』だ。

帯に書かれているキャッチコピーは「素直に受け入れてさえいれば、この街は優しい」だった。

表面上は優しくて紳士的なこの街(GENTLE LAND)で、生きにくさを抱えて困惑している若者たちの姿が、このCDでは歌われている。

アルバムのテーマ曲とも言える「GENTLE LAND」を初めて聴いたとき、僕は日本のロック史上に残る名曲が生まれたと、本気で思った。

現代アメリカ文学が、日本語のロックに登場した瞬間だと、大学2年生の僕は真剣に考えていたのかもしれない。

愛されたいと願っている
ぼくらは真夜中のキッチンで
おなかをすかせて立っている
誰もが真夜中のストリートで

さそわれたいと待っている
弟はロッカールームで
愛されたいと願っている
ぼくらは夜明けのディスコで

あやまりたいと悩んでいる
妹は公衆電話で
愛されたいと願っている
ぼくらは歯車にもまれて

愛されたい、愛されたい、、、

エコーズ「GENTLE LAND」

愛に飢えた少年少女の気持ちを、これほどまでストレートに歌ったミュージシャンは、かつてなかった。

これじゃあ、まるで『ライ麦畑でつかまえて』(サリンジャー)みたいだ。

それは、家庭にも学校にも居場所を見つけることのできない、現代社会の迷子たちのテーマソングだった。

少し前、東横キッズが社会問題化したときにも、僕は辻仁成の「GENTLE LAND」を思い出した。

こんなにも豊かで平穏なジェントルランドの中で、僕たちは、まだ逃げ場所を見つけ出せないでいる。

どうやら僕たちは、バブル時代の宿題を完成することもできずに、ここまで来てしまったらしい。

「GENTLE LAND」は、21世紀の日本を歌った歌だ。

大切なことは、「GENTLE LAND」が幻想でしかないことに、そろそろ僕たちは気がつかなくてはならない、ということなんだろうな。

アルバムの最後で、物語の登場人物たちは、「GENTLE LAND」に別れを告げる。

さよなら ダンサーを夢見た 20歳のブルー
抱き寄せられ 君はツバを吐き 飛び出した
素直に受け入れていれば 君はプリマドンナ
Good-bye ブルー 君はりこうじゃない

さよなら ジョン・ウェインに憧れた
Hey little boy.
目をつぶることができなくて とびかかった
金網におしつけられて かつぎこまれていった
Good-bye friend 君はかしこくない

大人しく うなづけない
愛すべき Bad Boys, Bad Girls
その時がきたら 噛みつけばいいさ

エコーズ「Good-bye Blue Sky」

「今度は少し長いお別れになるかもしれない」と、辻仁成は歌った。

現代社会との決別は、僕たちにとっての新しいスタートだったから。

あれから、もう35年の時が経つ。

「その時」は、来たのか?

こんな時代だからこそ、僕は、多くの人たちに「GENTLE LAND」を聴いてほしいと思う。

あの頃、買ったCDは、すっかりと日に灼けてしまったけれど、「愛されたい」と歌うあの頃のメッセージは、今も生々しく僕の中で生き続けているから。

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