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『週刊朝日』休刊と『サラメシ』と「村上朝日堂シリーズ」傑作10選

『週刊朝日』が休刊。

最後の『サラメシ』は寂しかったなあ。

懐かしき「村上朝日堂シリーズ」の思い出。

Contents

小説はつまらないけど、エッセイは楽しい?

村上春樹はエッセイがおもしろい。

『村上朝日堂』が出版されたとき、そんな噂があった。

小説はつまらないけど、エッセイは楽しい。

まじめに、村上春樹のエッセイだけ読んでる人もいたらしい。

小説とは全然違う村上春樹の素顔。

エッセイには、そんな魅力があったような気がする。

だって「フリオ・イグレシアスのどこが良いのだ!」だからね。

豆腐好きな話とか、ヤクルト・スワローズ好きな話とか。

夏が好きだって話とか、VANのダッフルコート13年も着てる話とか。

作家らしいインテリ臭さがない。

「ただの楽しいオジサンじゃん」って、村上春樹のエッセイ読んだ人は、みんな思ってたらしい。

で、エッセイ楽しかったから、小説も読んでみよう、みたいな。

逆輸入パターン。

エッセイが、小説と読者との架け橋になっていた部分は、きっとあると思う。

村上朝日堂シリーズの歴史

シリーズ最初の『村上朝日堂』の刊行は1984年。

古いね。

ほとんど40年前だ。

時の流れは、あまりにも早い。

でも、このエッセイ集、「朝日堂」って付いてるけど、朝日新聞社とは何の関係もなかった。

なにしろ連載誌は『日刊アルバイトニュース』。

なんで、こんな書名になったんだろう。

連載時のタイトルは「シティ・ウォーキン」だからね。

どこにも朝日新聞が出てこない。

だけど定着。

人気あったから。

安西水丸さんのイラストも良かったし。

そして、1985年、『週刊朝日』で「週刊村上朝日堂」が連載開始。

いよいよ村上朝日堂が、朝日新聞社に登場したのだ。

単行本のタイトルは『村上朝日堂の逆襲』。

相変わらずのどうでもいい話。

相変わらずの安西水丸。

安定のおもしろさ。

ますますハマる村上ワールド。

はっきり言って、村上春樹は、この時代が一番おもしろかったような気がする。

ちなみに「はっきり言って」というのは鼠の口癖。

1989年、『村上朝日堂はいほー』発売。

『ハイファッション』連載のコラム「ランダム・トーキング」を書籍化したもの。

村上春樹のエッセイ集は、もはや村上朝日堂しかないってことか。

1995年、村上朝日堂が、再び『週刊朝日』に登場。

これって『ねじまき鳥クロニクル』が完成した直後だったよね。

1996年、「村上朝日堂ホームページ」開設。

コードネームのプレゼントとか、村上さんと読者との距離感が一気に縮んだ。

あの朝、村上春樹から届いたメール。

今もちゃんと保存してあるよ(たぶん)。

MO(エムオー)で取っておいたんだよね、あの頃(笑)。

なにしろ、世の中はWindows95の大ブーム時代。

PC関連グッズが、机周りにどんどん増えていった。

そして、1997年、『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』発売。

このとき、村上さんは、もう50歳近くて、大御所みたいな存在になりつつあった。

地下鉄サリンの『アンダーグラウンド』出したのも、1997年だったし。

考えてみると、積極的に村上春樹フォローしてたのは、このくらいまでだったのかもしれない。

で、話は飛んで2023年5月、『週刊朝日』休刊。

最後の瞬間がNHKの「サラメシ」に登場。

「サラメシ」見ながら考えていたのが、1990年代の村上朝日堂のことだった。

なんだかんだ、面白かったんだよなあ、村上エッセイ。

そして、村上朝日堂の思い出は、そのままその時代の思い出でもある。

1980年代から1990年代にかけて、日本が頂点からどん底へと転がり落ちていった時代。

もしかすると、村上朝日堂は、一番良い時代に書かれたのかもしれない。

ということで、以下、思い出の村上朝日堂シリーズからマスターピースをチョイス。

夏について

『村上朝日堂』収録のエッセイ。

夏が好きな者として激しく共感できる。

夏は大好きだ。太陽がガンガン照りつける夏の午後にショート・パンツ一枚でロックン・ロール聴きながらビールでも飲んでいると、ほんとに幸せだなあと思う。(村上春樹「夏について」)

初期の村上春樹の小説は、夏の匂いがするので好き。

ダッフル・コートについて

『村上朝日堂』収録のエッセイ。

ダッフルコート着ている村上春樹のイラストが、本物そっくりだと話題になった。

さすが、安西水丸!

僕はダッフル・コートというのが好きで、この十三年くらいずっと同じものを着ている。VANジャケット製のチャコール・グレイのもので、買ったときは一万五千円だった。(村上春樹「ダッフル・コートについて」)

これ読んで以来、自分もずっとダッフル・コート党。

現在は、フォックス・ブラザーズとコラボしたマーガレット・ハウエルのものを愛用中。

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「夏の終わり」

『村上朝日堂の逆襲』収録のエッセイ。

いよいよ夏も終わりである。僕は夏大好き少年・おじさん(という表現を最近わりあい自嘲的な意味あいで使用することが多い)なので、夏が終わるとなるとかなり哀しい。(村上春樹「夏の終わり」)

村上春樹に夏を語らせたら長いよ。

そして、夏のエッセイというのは、やっぱりいいなあ。

ビールとショートパンツとロックンロールの夏の話。

バビロン再訪

『村上朝日堂の逆襲』収録のエッセイ。

千葉から東京へ戻ってきたときのことを綴っている。

でも今にして思うと、東京で店をやりながら寸暇を惜しんで小説を書いていた時代もそれなりにけっこう楽しかった。(村上春樹「バビロン再訪」)

「バビロン再訪」は、スコット・F・フィッツジェラルドの短編小説のタイトルから。

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ひとり旅

「村上朝日堂はいほー!」収録のエッセイ。

旅の途中で、ひとり旅をしている女性と一緒になったとき、声をかけるべきか否か。

僕は大学一年生のときにひとり旅をしていて、二十五、六の女の人に話しかけられて、わりに迷惑した覚えがある。「ねえ、あなたどこの大学? ふうん、早稲田か。彼女はいるの? それ何読んでるの?」なんて延々と三時間くらいつきあわされた。(村上春樹「ひとり旅」)

村上春樹のエッセイに出てくる昔話は、けっこう楽しいものが多い。

当時は、自分も若かったから、なおさら、そう感じたのかな。

無人島の辞書

『村上朝日堂はいほー!』収録のエッセイ。

一冊だけ本を抱えて無人島に行くとしたら、どんな本を持っていくか?

村上さんは外国語の辞書を一冊選ぶそうだ。

それから──これは小説のどれかの中で使ったと思うんだけれど──「どんな髭剃りにもその哲学がある」というのも僕の大好きな格言的例文のひとつである。(村上春樹「無人島の辞書」)

「小説のどれか」というのは『1973年のピンボール』。

この例文は、村上さんのいろいろな文章に登場している。

サマセット・モームの言葉らしいが、未だに出典は不明。

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もう十年も前のことだけど

『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』収録のエッセイ。

十年ぶりに『週刊朝日』に復活した「週刊村上朝日堂」最初の作品だった。

それが今ではマッキントッシュ・コンピューターのキーボードをぱたぱたと打って、ニフティサーブで原稿を送ることになる。そういえば十年前はファックスだって使ってなかったよな。(村上春樹「村上朝日堂はいかにして鍛えられたのか」)

ニフティサーブっていうのが、リアルに1995年っぽい。

「ようこそニフティサーブへ」って言葉、当時はみんなが聞いていたんだよね。

文学全集っていったい何なんだろう

『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』収録のエッセイ。

昭和文学全集に「1973年のピンボール」を収録したいと言われて断った。

もう、パンフレットも印刷してしまったという。

吉行淳之介が出てきたけれど断った。

で、文学全集の担当者が自殺したらしい。

そんな経緯が長々と綴られている。

ものを書く、ゼロから何かを生み出す、というのは所詮は切った張ったの世界である。みんなににこにこといい顔をすることなんてできないし、心ならずも血が流れることだってある。その責は僕がきっちりと両肩に負って生きて行くしかない。(村上春樹「文学全集っていったい何なんだろう」)

村上朝日堂にしては、珍しく重い内容のエッセイだった。

文化系と理科系

『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』収録のエッセイ。

村上さんは文化系。

ところが、奥さんも文化系なので、家庭内の理科系的事項は、すべて村上さんがひきうけなければならない、という話。

でも、このエッセイは「作者注」がおもしろい。

といいながらも、村上朝日堂はこのあとホームページを開設し、どんどん電脳化していくことになります。原理はよくわからないけど、けっこう使えちゃうというのがインターネットの良さであり、不気味さですね。(村上春樹「文化系と理科系」)

「電脳化」という言葉が、何となく懐かしい。

「Eメール」という言葉も、この本で久しぶりに読んだ気がする。

なにしろ、25年以上も昔のことなので。

旅行のお供、人生の伴侶

『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』収録のエッセイ。

旅行に持っていく本は、どんな本がいいか?

村上さんにとってオールマイティーなのが、中央公論社の『チェーホフ全集』だった。

旅行には持っていかないけれど、人生を通じて何度も何度も読み返す本がある。僕にとってはスコット・フィッツジェラルドの『偉大なるギャツビー』がそうだ。(村上春樹「旅行のお供、人生の伴侶」)

いつまでも自分の心を打ち続ける一冊の本を持っている人は幸福である(by 村上春樹)。

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まとめ

村上朝日堂シリーズが、心の癒しだった時代。

それが1990年代という時代だったような気がする。

写真は、新潮文庫版『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』の帯付き初版。

村上春樹の新刊が出るのが、待ち遠しかった頃のことだ。

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3代目アコード
バブル世代のビジネスマン。ヤンエグにはなれなかったけどね。