ヴィンテージのカップ&ソーサといえば、オールド・ノリタケ(日本陶器)が超有名だが、モダンなデザインに関しては東洋陶器も負けていない。
いわゆる「オールド東陶(トートー)」である。
源流を探っていくと、東洋陶器は、日本陶器(ノリタケ)へとたどりつく。
昭和モダンなオールド東陶
東洋陶器は、1917年(大正6年)、森村財閥の一角を担う形で誕生した。
森村財閥の主軸は、日本陶器(ノリタケ)である。
つまり、日本陶器と東洋陶器とは、兄弟のような関係にあったと言えるかもしれない。
東洋陶器の陶磁器製造技術は、日本陶器からもたらされたものである。
高い技術力を誇る東洋陶器は、大正期から昭和初期にかけて、モダン・デザインの食器を市場へと送り出した。
この時期は食器部門でも、磁食器、陶食器ともに生産技術が安定し、デザイン面でも斬新なものが考案され格段の進歩を遂げた。磁食器では、一般洋食器、ディナーセット、和食器会席セットのほか、多種類のファンシー類を揃え、また陶食器でも、輸出向け洋食器、ディナーセット、国内向け一般食器、ファンシー類など総計380余の品種を生産した。だが、何といってもこの時期の食器部門の特色は、品質の向上と絵柄の多様化にいちだんと磨きがかかったことであった。(東洋陶器株式会社「東洋陶器七十年史」)
コテコテしたオールド・ノリタケに比べて、オールド東陶はすっきりとしたデザインのアイテムが多い。
ひと言で言って、スマートである。
現代の生活に採り入れるなら、オールド・ノリタケは上級者向き、オールド東陶は初心者向きという感じがする。
コレクターズ・アイテムと化したオールド・ノリタケに比べて、オールド東陶は、まだまだ入手しやすいところもいい。
オールド・ノリタケ人気に遅れて、2001年(平成13年)、トンボ出版から『オールド大倉・東陶・名陶(大正・昭和モダン食器)』が刊行された。
奥深い食器コレクションの世界を、この書籍から知ることができる。
札幌グランドホテル開業当時の東洋陶器
オールド東陶の入手場所としては、骨董市や骨董店が中心となる。
フリマで見つからないこともないが、戦前のアイテムで、しかも美品となると、やはり専門の業者を回った方が早い。
2000年(平成12年)頃、円山にある小さなアンティーク・ショップで、東洋陶器のカップ&ソーサとケーキ皿のトリオを2セット買った。
円山の古い住宅に住んでいる個人から仕入れたものだという。
父親はかつて道庁に勤務していた人で、札幌グランドホテルの開業にも携わっていたらしい。
札幌グランドホテルの開業は1934年(昭和9年)だから、随分と昔の話である。
女性店主の話によると、その住宅には、古い洋食器がまだまだあるように思われた。
モダンなライフスタイルを好む人たちは、昔からいたのだ。
白と緑とのコントラストが美しい、そのトリオは、いかにも高貴な雰囲気を漂わせていた。
裏印(バックスタンプ)は「東洋陶器会社(TOYOTOKIKAISHA)」で、戦前の磁器洋食器では、最も普通に使用されていたものだ。
時代は、1921年(大正10年)から1941年(昭和16年)までで、オールド東陶を集めていると、見かける機会は多いはずだ。
1985年(昭和60年)に刊行された『札幌グランドホテルの50年』には、「開業当時に使った食器類」という写真の中に、このトリオと似たような緑色の食器が写されている。
さらに、札幌グランドホテル別館にある「メモリアルライブラリー」にも、「開業当時の食器」として、同じようなデザインのカップ&ソーサが展示されている。
札幌グランドホテルのメモリアルライブラリーは、誰でも入室無料で24時間利用できるので、札幌の歴史に興味のある人は知っていて損はない。
展示品を眺めていると、自分で持っていたいものが、次から次へと増えてしまうので、要注意だが。
それにしても、円山で買ったトリオが、もし本当に札幌グランドホテル開業当時の製品と同じものだったとしたら……。
そう考えるだけで胸がドキドキする。
古い雑貨を集める大きな楽しみのひとつが、こうした根拠のない妄想だ。
古い雑貨は、現代人を遠い昔へとトリップさせてくれる。
忙しい日々の時間を止めるだけの力が、アンティークにはあると思う。
だからこそ、人は、古い雑貨に夢を託してしまうのだろう。
円山のアンティーク・ショップは、その後、店を閉じてしまった。
親の介護をするために故郷へ帰ったのだ。
いろいろな意味で、アンティークのアイテムは一期一会だと思う。
あのとき、あのお店がなかったら、僕は、札幌グランドホテルの東洋陶器と出会うチャンスさえなかったかもしれないのだから。