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細野不二彦「あどりぶシネ倶楽部」80年代自主映画サークルの青春

現在、漫画界で活躍している大御所の新人時代が1980年代だった—

そんな理由があるからかもしれませんが、80年代には良い漫画がたくさんありました。

特に、大学生を主人公とするキャンパスもの(青春漫画)には、質の高いものが揃っていたような気がします。

『めぞん一刻』のように名作として現代に語り継がれているものはもちろん、最近では、あまり名前を聞かなくなった作品にも、忘れてしまいたくないものがいくつもあるのが、80年代の漫画シーン。

今回は『ギャラリーフェイク』で有名な細野不二彦さんの80年代キャンパス漫画から『あどりぶシネ倶楽部』をご紹介したいと思います。

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概要

『あどりぶシネ倶楽部』は、細野不二彦さんによる青春漫画で、1983年(昭和58年)から1986年(昭和61年)まで、「ビッグコミックスピッリツ」に不定期で掲載されました。

コミックスは、1986年(昭和61年)9月に刊行されています(小学館ビッグコミックス・全1巻)。

基本的に一話完結型の読み切り漫画ですが、とある大学の自主映画研究サークル「あどりぶシネ倶楽部」のメンバーたちの青春を描いています。

「あどりぶシネ倶楽部」は、神野高史、片桐邦雄、原田の3人で構成される自主映画サークルで、第1話で佐藤道明が、第5話で沖梓がレギュラーメンバーとなるほか、ひとつの話の中にしか出てこないキャラクターも登場します。

映画を愛し、映画に情熱を燃やした大学生たちの青春とは?

80年代キャンパスの一端を知る上でも、貴重な資料になってくれるのではないでしょうか?

あらすじ

『あどりぶシネ倶楽部』は、全部で9つの物語から構成されています。

Scene.1 愛と喝采の日々

大学の映画サークル「あどりぶシネ倶楽部」は、俳優の確保にも困るような弱小団体ですが、ある日、プロデューサーを務める片桐さんが、まるで女性のように長い髪をした美形の男の子・佐藤道明を連れてきます。

とても素人と思われないカメラワークに、監督の神野くんも言葉を失いますが、後に、道明くんは、「ぽあ」フィルム・フェスティバルで入選した経歴を持つ逸材であったことが判明。

道明の才能に嫉妬した神野くんは、ふてくされてしまいますが、神野くんと道明くん、それぞれの才能に惚れ込んでいる片桐さんの説得を受けて、道明との共同作業に取り組みます。

オレは、神野と道明が本気で組んだら、スゲエ映画がつくれると信じてるんだぜ。このコンビを実現できなかったら、オレ、プロデューサーやってる意味ないね。それを、おまえさんのケチなヒガミ根性でつぶされちゃタマらねえよ。(片桐邦雄の言葉)

一人一人が映画に熱い情熱を持っている。

「あどりぶシネ倶楽部」は、そんな自主映画サークルだったのです。

Scene.2 スタア誕生

ひょんなことから、空手部の「鬼拳」こと吉田拳二と知り合いになった監督の神野くんは、拳二から「映画に出演させてほしい」と頼まれます。

付属高校時代から暴れん坊として有名な存在だった拳二ですが、映画に対するセンスは素晴らしく、格闘シーンの殺陣(たて)までつけてくれるほど。

実は、拳二には幼少の頃、『ジャイアント・X』という特撮ヒーロー映画に、子役として出演していた経歴がありました。

小学生の頃、劇団に入れられた拳二は子役として活躍しますが、中学受験が近づく頃、親の希望であっさりと劇団を退団、受験勉強を乗り切って、当時12倍の倍率を誇った附属中学校に合格します。

しかし、中学・高校・大学と、両親の敷いたレールの上を歩き続けてきた拳二は、自分の生き方に疑問を持ち始めていました。

いっちょ前にサインなんかしたりしてよ。本気にスターになってやろーとか、思ったもんだぜ。中学が3年、高校で5年、大学ははや6年もやってきたが、はたして、この14年間、オレはあの頃を越えることをやったんだろうか…(吉田拳二の言葉)

ここにもまた、映画に情熱を燃やして夢を見た若者がいたのです。

Scene.3 面影

一年前のことになりますが、監督の神野くんは、女子大の学園祭で見つけてきた麻衣子ちゃんを主演にして、映画『舞子・MY・LOVE』を撮影しました。

撮影も順調に終わり、『舞子・MY・LOVE』がクランクアップした翌日、神野くんは麻衣子ちゃんに告白しますが、当時、麻衣子ちゃんには既に恋人がいることが分かり、神野くんは玉砕します。

その後、麻衣子ちゃんが「あどりぶシネ俱楽部」と関わることもなく、神野くんも、とうに麻衣子ちゃんの存在を忘れかけていた頃、突然、麻衣子ちゃんが神野くんの前に姿を現しました。

かつて好きだった女の子との再会に、神野くんが戸惑っている頃、プロデューサーの片桐さんは、「あどりぶシネ俱楽部」初めての上映会に『舞子・MY・LOVE』を加えることに決めます。

こういう場所に足を運ぶ人達にはわかるはずよ。どうせ映画撮るならと、かわいい娘をさがしてくる。映画に出す! カメラを回す! その娘の魅力をもらさずフィルムに焼きつけようとして、いよいよ、その娘がかわいく見えてきてしまう。口説く、で、フラれる—。そういう”想い”が、たとえば、あのフィルムにはあふれているの。(片桐邦雄の言葉)

映画製作を通して知り合った、男の子と女の子の一瞬の青春ドラマで、大学生活の楽しさは、そんなところにあったのかもしれませんね。

『あどりぶシネ俱楽部』では数少ない、ストレートに恋愛をテーマとした貴重な作品です。

作品タイトル『舞子・MY・LOVE』は、やはり吉田拓郎の名曲「たえこ MY LOVE」からでしょうか。

Scene.4 SHALL WE DANCE

大学内外で人気のロックバンド「ブレイン・ストーミング」のプロモーションビデオ制作の依頼が、「あどりぶシネ俱楽部」に持ち込ました。

報酬はなんと60万円!

監督の道明は一流の作品を残そうと力をいれますが、バンドリーダーでボーカリストの工藤が協力的でないことに苛立ち、家に帰っても、後妻をもらった父との軋轢に苦しみます。

プロモーションビデオのせつめいとして紹介されているのが、マイケル・ジャクソン「スリラー」(ミュージックビデオは1983年12月初公開)。監督は「ブルース・ブラザーズ」や「狼男アメリカン」のジョン・ランディス。

そんなとき、プロモーションビデオの制作費として工藤が拠出したお金を、バンドメンバー女性関係のトラブル処理で勝手に使いこんでしまい、ビデオ制作は頓挫してしまいます。

自信たっぷりで幸せそうに見えた工藤も、実はバンドメンバーとの軋轢や複雑な家庭環境のことで苦しんでいたのでした。

そのとき、やっとわかったのさ。あいつらは、オレと見ているものが全然違うんだってことが—。あいつらは、みんなで集まって、ワイワイ騒いで、誰かがドジ踏んだら互いに傷をなめあって、そうしていれば楽しい連中なんだ。オレはダメさ。どんなバカ騒ぎをやってても、必ずそれをさめた目で見ている、もう一人の自分がいる…(工藤の言葉)

音楽にすべてを賭けた青春と映画にすべてを賭けた青春。

ふたつの才能が全力でぶつり合った日々の物語。

初めて道明くんが主人公を務めました。

作品中で、道明くんの探しているレコードが、デュラン・デュラン『セブン・アンド・ザ・ラグド・タイガー』(1982年11月リリース)。

Scene.5 フレンズ

片桐さんが連れてきたジャーナリズム研究会の女子大生・沖梓に、神野くんはすっかりと一目惚れ。

梓ちゃんが、ミニコミ誌で小説も書いていると知って、神野くんはこの作品を映画化しようと決めます。

自分の書いた小説が映画になることを素直に喜ぶ梓ちゃんと、そんな梓ちゃんにどんどん惹かれていく神野くん。

しかし、梓ちゃんには、既に好きな人がいて、神野くんはまたしても失恋してしまい、そんな梓ちゃんも、意中の人からは相手にしてもらえません。

私は自分の映画を観たいだけなんですから…。ここにいるのは、ホント、それだけの理由なんですから…(梓ちゃんの言葉)

みんながそれぞれの思いを抱えながら、ひとつの映画を作り始めた。

1982年秋。

「あどりぶシネ俱楽部」に、新しい仲間が加わった瞬間でした。

Scene.6 ソルジャー・ブルー

「あどりぶシネ俱楽部」では、役者として演じ、記録係も渉外もこなす原田。

以前に映画を撮っていた経歴はあるらしいのですが、原田の過去は謎に包まれています。

そんなときに現れたのが、昔の仕事仲間の兼子さんでした。

かつて、ブルーフィルムを製作していた兼子さんは、裏ビデオ制作に商売を切り替えるため、原田をスタッフとして勧誘しますが、、、

あいつらのやりたいことを、少しでも実現できるよう手伝っていられることが、今のオレにとっては最高だね。そもそもオレなんて”ほっとかれれば何もしないナマけたい人間だけど”、あいつらと一緒にいると、オレも一発何かやらなくちゃ、自分の目標ってもンを探さなきゃなって、気分でいられるのサ!(原田の言葉)

「あどりぶシネ俱楽部」謎のメンバー・原田の過去が明らかになる!

初めて、原田が主人公を務めた回です。

Scene.7 静かなる男

「あどりぶシネ俱楽部」は、大学のアニメ研究会に「マット・ペインティング」の制作を依頼します。

アニ研のリーダー「泉」は、サークルの中でも暗い「青山」を毛嫌いしていて、アニメ研究会のメンバーも、他の大学生と同じように、ファッションに気を付けたり、スポーツをしたり、女の子とデートをしたりしなければいけないと主張します。

作品中で青山が観ているテレビは『うる星やつら』の再放送。テレビアニメは1981年10月スタートでした。

「明るいアニメファン」、それが泉の目指すアニメ研究会でしたが、真剣に映画と向き合っている「あどりぶシネ俱楽部」のメンバーは、真剣にアニメと向き合っている青山の才能に惹かれていきます。

何にせよ、一生懸命になれる人っていうのは、好感もてるものよ。それでいて有能ならば最高だわね。最低なのはハンパな人間—身なりとか知識とか常識とかをふりかざして、もっと大切なことを知ろうとしない人間!! 仲間を卑しめることで優越感に浸ろうとする人間!! そういう野郎を何て呼ぶか、知ってるかい? 下衆って言うんだよ!(片桐さんの言葉)

ジャンルは違っていても、真剣な者同士は繋がっていく。

そんなことを感じさせてくれる物語です。

Scene.8 ミッドナイト・エクスプレス

道明の恋人は美人の同級生・真知子さん。

映画に集中しがちな道明は、デート中にも映画のことを考えていたために、真知子さんと喧嘩をしてしまいます

フィルム編集で、せっかく撮影したフィルムを切らなければいけないことに、道明は悩んでいました。

そんなとき、深夜の列車で、道明は酔っぱらいの中年男性と知り合いになります。

一人息子が勝手に勤め先を辞めてしまったことに、彼は傷ついていたのです。

25といえば、もう一人前と言うのも恥ずかしいほどりっぱな大人だ。そいつが自分で選んだことに、自分で責任がとれなくてどうする? ただな、25年も手元で育ててきて、25年だぞ! 今になって、その我が子に示した道がベストとは言い難かったなんて…そんなことを認めなきゃならんハメになるなんて…愚痴のひとつもこぼさせてもらわにゃ、やりきれんよ…(寺内教授の言葉)

映画製作の難しさと子育ての難しさをリンクさせた名作です。

Scene.9 ネバーエンディング・ストーリー

突如、現れた映研OBの阿川小倭子は、アイドルにカリスマを与え、宣伝費を湯水のごとく使う門川映画の美人プロデューサー。

神野くんの才能に目を付けた小倭子さんは、新人監督のオーディションを受けるよう勧めますが、神野くんは今ひとつ乗り気になれません。

おそらく、神野君とミチアキ君は、この先、メジャーに昇って、スゴイ映画を何本も撮っていける人達だわ。でも悲しいかな、日本の映画界は、そういう若い才能を育てていく環境になっていない—。だから、私も本職のプロデューサーになって、二人と組んで、日本中の映画館を満員にしてみせる! 私たちの手でよ! それが夢だったの…(片桐さんの言葉)

神野くんは「卒業するまで考えさせてほしい」と、小倭子さんに申し出ました。

彼らには、まだ、8ミリでやっておきたいことが残っていたのです。

自分たちは、どうして映画を撮るのか?

その答えを、彼らは探し続けていたのかもしれませんね。

読書感想と解説

細野不二彦さんの『あどりぶシネ倶楽部』は、映画サークルで活動する大学生の物語ですが、特別に映画に対する詳しい知識がなくても楽しむことができる漫画です。

『あどりぶシネ倶楽部』は大学生活の原風景だった

映画は、あくまでも素材であって、そこに描かれているストーリーは「映画」という趣味を通して語られる、彼らの青春だからでしょう。

1982年(昭和57年)、管理人は中学3年生、コミックスが発売された1986年(昭和61年)で、ようやく大学1年生で、『あどりぶシネ倶楽部』の中には、大学生活に対する漠然とした憧れのようなものが描かれていたような気がします。

何より、彼らの自由な暮らしは、まさしく憧れの大学生活そのもの。

サークルメンバーで家庭生活が描かれているのは道明くんのみ(複雑な家庭環境があった)で、その他のメンバーは一人暮らしをしていると思われますが、家族ではなく、仲間たちと一緒に過ごす日々の暮らしは、僕にとって大学生活の原風景のようになっています。

「本気であること」が彼らをつないだ

映画好きの連中が主人公の漫画ですが、作品の中では、映画以外の分野で才能を持つ大学生たちも登場します。

「Scene.4 SHALL WE DANCE」に出てくる工藤は、人気ロックバンドのボーカルで、デュラン・デュランを通じて道明くんと理解し合います。

また、「Scene.7 静かなる男」に登場するアニメ研究会の青山は、いわゆる「オタク」ですが、アニメやプラモデルにかける情熱を通じて、「あどりぶシネ俱楽部」のメンンバーと意気投合します。

ひとつの目標に向かって情熱を持って取り組んでいる若者たちは、ジャンルを超えて協働できるというメッセージでしょう、

一方で、傷を舐め合うバンドメンバーや、遊び気分で仕事に取り組むアニメ研究会の泉などは、「あどりぶシネ俱楽部」のメンバーからは敬遠されます。

「本気であること」が、彼らにとっての共通パスポートのようなものだったのかもしれませんね。

大人たちが教えてくれたもの

大学生以外の大人たちが登場する話も見逃せません。

「Scene.6 ソルジャー・ブルー」に出てくる兼子さんは、ブルーフィルム(裏ビデオ)の監督で、浪人時代の原田が世話になった恩人でもありますが、一生懸命な神野くんたちの活動を見ていた原田は「監督というものは、ただ待っているだけで自分の撮りたい絵が撮れるというなら、たとえ大地が腐ろうとも待つべきなんだな」という言葉を漏らします。

撮っているジャンルが違っても、映画に対する情熱を持った人間ということでは、兼子さんにも原田くんにも、同じ血が流れていたのではないでしょうか。

「Scene.8 ミッドナイト・エクスプレス」には、著名な大学教授が登場して、子育てに苦しむ一人の父親として描かれています。

酔った寺内教授の愚痴を聞きながら、「私たちが作っているのは”映画”であって”映画の記録”じゃない」「そして一本の映画の中で、ワンカットのフィルムが生きて輝ける場所は、おのずと限られていて—」と編集を迫る片桐さんの言葉を思い出している道明くんは、フィルムに対する愛着と映画製作とは別のものだということに気が付きます。

映画と子育て、若者と父親、大学教授と大学生、いろいろなものをリンクさせていて、道明くんの恋人の真知子さんまで登場、コミックス収録の中でいちばん好きな作品です。

読み切り漫画の醍醐味を最大限に楽しむことのできる作品です。

空振りばかりだった、彼らの恋愛ストーリー

青春漫画最大のテーマと言えば「恋愛」ですが、『あどりぶシネ俱楽部』最大の恋愛エピソードといえば「Scene.3 面影」でしょう。

一年前に失恋したときの相手である麻衣子ちゃんと再会した神野くんは、「私の部屋に遊びに来て」と誘われて戸惑います。

実は、麻衣子ちゃんも同棲していた男の子と別れたばかりで、自分を慰めてくれる男性が欲しかったのですが、一年前に好きだったという感情だけで、再び人を好きになれるものではありません。

神野くんの麻衣子ちゃんに対する思いは、一年前に制作された映画『舞子・MY・LOVE』の中に輝いていました。

神野くんは「Scene.5 フレンズ」で初登場となる梓ちゃんに恋をして、ここでもフラれてしいまいますが、子どもっぽい梓ちゃん、実はダンディな片桐さんに恋をしていて、彼らの恋愛は、なかなかうまくまとまりません。

このエピソードは、最終話である「Scene.9 ネバーエンディング・ストーリー」で再燃しますが、片桐さんの恋の相手は映研OBの映画プロデューサーである阿川小倭子さん。

神野くんは相変わらず梓ちゃんのことが好きで、梓ちゃんは今も片桐さんのことを思い続けていますが、片桐さんの恋のお相手は、社会人の小倭子さん。

そんな小倭子さんも、今は恋愛よりも仕事に夢中ということで、結局、彼らの恋愛は空振りばかり。

青春時代の恋愛なんて、そんなものなのかもしれませんね。

気になるのは、彼らのその後です。

神野くんや道明くんは映画界でデビューすることができたのか。

片桐さんと小倭子さんは、結婚することができたのか。

大学生活というのは、いろいろな意味で準備段階のようなものなので、本当の彼らの活躍は、きっとこの後だったはず。

そんな夢を見ながら読むことができるのが、キャンパスストーリーというものだと思いました。

まとめ

ということで、以上、今回は細野不二彦さんのキャンパス漫画『あどりぶシネ倶楽部』について全力で語ってみました。

本気で映画に情熱を燃やして、映画に青春を賭け続けた大学生たちの物語の中に、1980年代という時代が見えてくるのではないでしょうか。

書名:あどりぶシネ倶楽部
著者:細野不二彦
発行年月日:1986/9/1
出版社:小学館ビッグコミックス

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KONTA
1967年生まれのバブル世代。80年代カルチャーしか勝たん。推しは仙道敦子。匂いガラスが欲しい。