文学鑑賞

山藤章二「駄句だくさん」馬鹿馬鹿しいけどしみじみしている落語のような俳句会

山藤章二「駄句だくさん」あらすじと感想と考察

山藤章二・駄句駄句会「駄句だくさん」読了。

本書は、2013年(平成25年)に刊行された俳句の本である。

この年、著者は76歳だった。

俳句と落語が好きな高齢者たち

ちょっと息抜きにくだけた本を読みたいと思った。

「駄句駄句会」とは、山藤章二を中心に、立川左談次や松尾貴史、高橋春男、林家たい平、野末陳平など、俳句と落語を好きな文化人で結成された句会で、落語の「だくだく」に掛けながら、自分たちの作品を「駄句」と心得ている人たちの集まりらしい。

本書には、1990年(平成2年)以来の駄句駄句会の名作が収録されているが、これが予想以上に面白くてびっくりした。

もちろん、基本はくだらない馬鹿馬鹿しい俳句ばかりなのだが、くだらなさの中に味わいの感じられる作品があったりして、ハッとさせられる。

風俗の姉より高い鯉のぼり 風眠

都会の風俗のお姉ちゃんは3万円位で売っているけれど、故郷の弟に買ってやりたい鯉のぼりは、ずっと高価だから、たくさんお客を取らなければならない、、、

♪屋根より高い鯉のぼり~に引っ掛けた駄洒落である。

タン、ロース、カルビ、ハラミを焼く炭だ 駄郎

久保田万太郎の「ばか、はしら、かき、はまぐりや春の雪」にインスパイアされた作品(らしい)。

春雨やレコード45回転 媚庵

駄洒落のない作品。

45回転(ドーナツ盤と呼ばれたシングルレコード)がいい味を出している。

路地を出てまた路地に入る月明り 媚庵

これは、通常の句会でも票を集めそうな秀句だと思う。

路地の多い下町の感じがたっぷり。

ステテコとステテコが指すヘボ将棋 駄郎

これも、懐かしい下町風景を感じさせる作品である。

「植木等が最後の日本人だった」というコメントで笑った。

高齢者で構成されている、この句会では、時間の流れが昭和30年代で止まっているらしい。

かたつむり辞書にのせれば辞書を這う 媚庵

これも上手な句で、僕は媚庵さんと気が合うらしい(笑)

ちなみに「媚庵」は、『短歌人』編集人の歌人、藤原龍一郎。

上手なはずだよね。

三日月や殺したい奴二人居る 邪夢

かなりヤバい俳句だけれど、感情はきっちりと表現できている。

三日月との取り合わせが巧い。

会場では「ネット少年みたいな句だね」の声あり(笑)

人の手が落葉の下にある火サス 喫蟲

本書を読みながら一人で大爆笑して、妻から「どうしたの?」と不審な目を向けられたのが、この「火サス」。

もちろん「火曜サスペンス劇場」のことで、事件は、大体こんな場面から始まる。

まさしく駄句駄句会の名句だと思った(名駄句と言うのかな?)

薮、まつや、砂場、更しな晦日そば 駄郎

蕎麦の名店を詠み込んだ作品。

作者曰く「久保田万太郎のパロディ」。

またかよって感じだけど、すごく良い雰囲気を出している。

万太郎っぽいところもいい。

生き恥をひとつさらして心太(ところてん) 駄郎

「駄郎」は小説家・吉川潮の俳号。

下五の「心太(ところてん)」がいいなあ。

生き恥をさらして、悔しい思いを噛みしめながら食べるのが「心太」だからね。

小説家らしい俳句だと思った。

自由な雰囲気で楽しむ俳句

あとがきの中にも好きな句があった。

世に媚びることなく生きて鰻喰う 漂金

「漂金」は、「オレたちひょうきん族」などのヒット番組を制作したフジテレビのプロデューサー、横澤彪の俳号。

フジテレビのプロデューサーが「世に媚びることなく生きて」なんて言っている。

テレビ局を退職して、鰻を食べながら、自由に俳句なんか作っていると、「世に媚びることなく生きて」いることの素晴らしさを実感していたのかもしれない。

人生の味わいを教えてくれる秀句と言えるだろう。

全体に、笑いながらしみじみと楽しませてくれる、まるで落語のような味わいの本だった。

俳句っていうのは、やっぱり自由な雰囲気で楽しむのがいいね。

書名:駄句だくさん
編者:山藤章二、駄句駄句会
発行:2013/3/21
出版社:講談社

ABOUT ME
みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。