ヒュー・ロフティング「ドリトル先生の動物園」読了。
岩波少年文庫の「ドリトル先生物語シリーズ」第5作目の作品だが、これまでに読んだ作品の中では最もレベルの高い作品だと感じた。
これまでの作品と決定的に違うのは、動物たちの身の上話を中心として物語が構成されている部分である。
ドリトル先生は、動物たちのために新しいクラブを作ることを発案する。
それは、動物が人間のための見世物になる場所ではなく、動物たちが安心して暮らすことのできる、動物たちのための街(あるいは国)とでも言うべき「動物園」だった。
ネズミ・クラブ、雑種犬ホーム、アナグマ宿屋、キツネ集会所、リス・ホテル。
動物たちが集まってきて、次々と新しいクラブが生まれた。
中でも盛大な賑わいを見せたのが「ネズミ・クラブ」で、彼らは、このネズミのための町を「ネスミ連合共和国」と名付けて、ドリトル先生をお祝いの集まりへと招待する。
そこには個性豊かなネズミが集まっていて、どのネズミも自分の身の上話を、かの有名なドリトル先生に聞いてもらいたいと考えていた。
先生は、毎晩のようにネズミ・クラブを訪れては、ネズミたちの話を興味深く聞く。
ホテル・ネズミ、火山ネズミ、博物館ネズミ、牢屋ネズミ、うまやネズミ、、、
それぞれのネズミの話は壮大で、歴史的な意味さえ持つと感じたドリトル先生は、ネズミ文字を考案して、ネズミのための本を書くことになる。
本書では、このネズミのための物語が収録されているのだが、ホテル・ネズミや火山ネズミ、博物館ネズミ、牢屋ネズミなど、それぞれのネズミが語る物語はドラマ性に富んでいて、人生の機微を感じさせる内容になっている。
これまでのドリトル先生シリーズでは、ドリトル先生の活躍ぶりが物語の中核を構成していたが、「ドリトル先生の動物園」では、動物が主役となって動物の物語を語る部分が中心となった。
そして、それぞれの動物の物語が優れた短篇小説に仕上がっているところが素晴らしい。
ネズミの話に一区切り付けたところで、物語は大きく転換して、犬の探偵が登場する遺産相続ミステリーとなる。
この辺りの方向転換はかなり唐突で戸惑わないではないが、探偵犬が活躍するミステリーも、それはそれで楽しいので、あまりこだわらずに楽しみたい。
ところで、「ドリトル先生の動物園」は、ドリトル先生たちが大きな海かたつむりに送られて、無事に故郷の浜辺へとたどり着くところから、物語がスタートする。
大きな海かたつむりは、シリーズ第2作目「ドリトル先生航海記」のラストシーンに登場して、ドリトル先生たちをイギリスまで送りとどけようとする場面で終わっているから、「ドリトル先生の動物園」は明らかに「ドリトル先生航海記」の続篇として読むことが可能だ。
「ドリトル先生航海記」を読み終えて、ドリトル先生たちは無事にイギリスへ帰ることができただろうかと心配している方々は、次に、この「ドリトル先生の動物園」を読むと安心できるだろう。
トミー・スタビンズの一人称で語られる「ドリトル先生の動物園」
「ドリトル先生の動物園」は、ドリトル先生の助手であるトミー・スタビンズの一人称によって語られる物語である。
この点は、本作の前段の物語とも言える「ドリトル先生航海記」と同様の構成であって、「航海記」と「動物園」は続けて読んだ方が違和感はないようだ。
ここまで読んできて、ようやく、ドリトル先生物語シリーズは、作品発表の順番と、物語内容との展開は一致していないということが分かった。
ドリトル先生物語シリーズは、ひとつひとつの作品を、それぞれで楽しむことが良いようである。
書名:ドリトル先生の動物園
著者:ヒュー・ロフティング
訳者:井伏鱒二
発行:1979/2/27
出版社:岩波少年文庫