生活体験

ファイヤーキングのマグカップ「スタアバックス珈琲」昭和レトロとアメリカ文化との融合

ファイヤーキングのマグカップ「スタアバックス珈琲」昭和レトロとアメリカ文化との融合

多くのコレクターがいることで知られる「Fire-King」(ファイヤーキング)の生産がアメリカで終了したのは、1986年(昭和61年)のこと。

それは、1941年(昭和16年)に生まれたファイヤーキングの、ヴィンテージ製品に熱い注目が集まっている時代だった。

本当の意味で「幻」となったファイヤーキングの収集熱は、いよいよ加速していった。

マーサ・スチュワートから始まったファイヤーキング・ブーム

コレクターズ・アイテムとして「ファイヤーキング」が注目されるきっかけとなったのは、カリス主婦として有名な女優(マーサ・スチュワート)だった。

その火つけ役といわれるのが、かつてアメリカの主婦たちの間でカリスマ的影響力を誇り、日本でも人気の高かったマーサ・スチュワートである。(略)雑誌などで紹介された彼女のキッチンにずらり並んだファイアーキングを見た主婦たちがそれに追随したことが、その後のフィーバーぶりに繋がったわけである。(山口淳「これは、ほしい。」)

マーサ・スチュワートのコレクションは、「無地の、主にジェダイカラーの業務用シリーズ」だった。

ファイヤーキングと言えば、現在でもジェダイカラーの業務用シリーズを思い浮かべる人は多い。

ファイヤーキングのミルクガラスのロゴファイヤーキングのミルクガラスのロゴ

そもそも、ファイヤーキングは、大衆レストランで使用される安価な食器だった。

50、60年代の一般家庭やダイナーでごく普通に使われ、安売りスーパーなどで気軽に買えたマグカップは、10年前までなら1~2ドルで買えたが、最近では10倍、20倍の値にハネ上がってしまっている。業務用ジェダイになると100ドル前後の値がついていることもあるほどだ。(山口淳「これは、ほしい。」)

安価で丈夫、耐熱性があって、スタッキングもできるというファイヤーキングのマグカップは、アメリカ人の好きな合理性の塊みたいな食器だ。

ミルクガラスは清潔感があって、カップボードに並べても美しい。

さらに、企業とコラボした多くのアドバタイジング(企業広告)マグの存在は、コレクターの収集欲を強く刺激した。

ファイヤーキング『マクドナルド』のアドバタイジングマグカップファイヤーキング『マクドナルド』のアドバタイジングマグカップ

例えば、『マクドナルド』のマグカップは、『マクドナルド』でブレックファースト・セットなどを注文した客に配付されたノベルティマグである(つまり、おまけ)。

安価なファイヤーキングは、企業のオマケとして、ちょうどいい存在だったのだ。

笑顔の太陽が「Good Morning」と挨拶しているデザインは、まさに朝食テーブルにぴったりで、実用品としても人気が高い。

コーヒー豆を詰める麻袋(ジュート・バッグ)に「COFFEE」の文字がデザインされたマグカップは、仕事中のコーヒータイムに気分が出る。

つまり、「実用性」に「気分」をブレンドしたアイテムが、ファイヤーキングという存在だった、と言える。

1940年代から1970年代のファイヤーキングはヴィンテージとして、コレクターに人気だが、そもそも、ファイヤーキングは、1941年(昭和16年)から1986年(昭和61年)までの間、アンカーホッキング社において製造されていた製品である。

ファイヤーキングという存在そのものが、既にヴィンテージであり、コレクターズアイテムなのだ。

「スタアバックス珈琲」のマグカップ

もっとも、日本では、ファイヤーキング製品が、現行品として販売されている。

2011年(平成23年)に設立された「ファイヤーキングジャパン」が、アンカーホッキング社との提携のもと、「ファイヤーキング」ブランドの製品を生産し続けているのである。

ファイヤーキングジャパン製のスタバマグ(2019年)ファイヤーキングジャパン製のスタバマグ(2019年)

2018年(平成30年)、スターバックスコーヒージャパンは、藤原ヒロシのデザインプロジェクト「Fragment Design」(フラグメントデザイン)とのコラボ商品として、「ファイヤーキング」のグラスマグを発売した。

翌年の2019年(平成24年)には、喫茶店のレトロ看板をイメージした「スタアバックス珈琲」のマグカップが登場。

洗練されたスターバックスコーヒーとレトロな喫茶店文化をつないだのが、戦後のアメリカ文化を象徴するファイヤーキングだったという事実は興味深い。

令和時代になって、「昭和レトロ」や「平成レトロ」が若い世代から支持されている中、ファイヤーキングの持つ魅力が、Z世代の心にも響いたということだろうか。

今、ヴィンテージのファイヤーキングは、すっかりコレクターズアイテムとして定着して、市場価格も高値安定となった感がある。

ミルクガラスのマグカップを、1ドルや2ドルで買うことができる時代があったなんて、今や夢のようだが、多くのヴィンテージアイテムには、同じような伝説が付き物だ。

あまりにも身近だったからこそ、特別の注目も受けなかった存在。

そして、ファイヤーキング・マグの魅力は、むしろ、そんな匿名性にこそあると言えるのかもしれない。

現在の100均アイテムが、いつかコレクターズアイテムとして再評価される時代が来るのだろうか。

ABOUT ME
MAS@ZIN
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。