読書体験

神野紗希「俳句部、はじめました」女子高生のリアルな青春から始まった俳句ライフ

神野紗希「俳句部、はじめました」女子高生のリアルな青春から始まった俳句ライフ

神野紗希「俳句部、はじめました」読了。

「カンバスの余白八月十五日」という俳句がある。

第四回俳句甲子園(2001年)で最優秀句を受賞した作品で、作者は松山東高校三年生の神野紗希さん。

神野さんは、もともと松山東高校放送部の部員として活動していたが、高校一年生のときに取材した俳句甲子園で「いわしぐも進路相談室の窓(作者不詳)」という作品に触れたことがきっかけとなって俳句に興味を持った。

その頃、松山東高校には俳句部がなかったので、自ら「俳句同好会」を立ち上げ、高校三年生の夏、第四回俳句甲子園に出場した彼女は「カンバスの余白八月十五日」という作品を発表して、団体優勝と最優秀句を獲得した。

本書では「カンバスの余白八月十五日」の句を作ったときの様子が綴られている。

この年、俳句甲子園のウェルカムパーティーは八月十七日に開催され、その席で兼題は「白」と「青」であることが発表された。

「カンバスの余白」は兼題の「白」から、終戦記念日を意味する秋の季語「八月十五日」はウェルカムパーティーが開催された「八月十七日」からヒントを得ていたのだ。

このとき、神野さんは小学生の頃に祖父から聞いていた「広島に原子爆弾が落とされたとき、瀬戸内海の対岸にある松山からもきのこ雲が見えた」という話を思い出す。

祖父は戦争で兄を亡くしたために、やりたかった仕事をあきらめ、家業である農家を継いだらしいが、祖父から戦争の話を聞いたのは、その一度きりで、「私にとっての「余白」。そう考えたとき、祖父の戦争の話を、ふと思い出しました」「カンバスの余白のように、私にとっての『八月十五日』にも、ついぞ埋められない余白があるのではないか」と、神野さんはこの作品を作ったときの様子を回想している。

本書『俳句部、はじめました』は「俳句の魅力」「俳句の鑑賞法」「俳句の作り方」という大きく三つのテーマから構成されている、俳句入門書だ。

最初の章「俳句の中に、私を見つけた!」では、放送部員だった神野さんが俳句と出会い、どんどん俳句に夢中になっていく過程を描くことによって、俳句の基本的な魅力を伝える形となっているが、友人との交流や失恋など女子高生のリアルな青春体験が綴られていて、エッセイとして十分に楽しめる。

次の章「十七音、コトバの宇宙」は、俳句を鑑賞していくコーナーだが、教科書に載っていそうな俳人の有名句ばかりではなく、俳句甲子園で発表された作品なども多く取り上げられていて、初めて俳句に触れる中高生が共感を得やすいよう配慮されている。

『この恋は線香花火より永く(矢野玲奈)』『神の留守母子家庭ですけど何か(永瀬十悟)』『ラムネから噴き出している 時間、とか(佐藤廉)』『草の実や女子とふつうに話せない(越智友亮)』『制服の下に水着をもう着てゐる(山下つばさ)』『夕焼けやいつか母校となる校舎(大池莉奈)』など、十代の想像力で読み解いてほしい作品がたくさんあった。

最後の章「作ろう! 私の五七五」では、ホップ・ステップ・ジャンプの三段階方式で、創作のコツを解説(このあたりは何となく「南風わたしはわたしらしく跳ぶ」の映画『恋は五・七・五』を連想させる)。

中高生向けの入門書だが、「句またがり」や「取り合わせ」など、実際的な技法も具体的に解説されていて、感度の高い十代の人たちだったら、この本を読むだけで、本当に魅力的な作品を作ってしまいそうな気がした。

「俳句の本質は、その自由の精神にあります」

俳句を嗜む大人の方にも、ぜひ読んでいただきたい入門書である。

「岩波ジュニアスタートブック(ジュニスタ)」創刊ラインアップの一冊

『俳句部、はじめました』は、「岩波ジュニアスタートブック(ジュニスタ)」創刊ラインアップの一冊である。

「岩波ジュニアスタートブック(ジュニスタ)」は、2021年3月、中学生を対象に創刊された学習入門シリーズで、創刊ラインアップは全四冊。

その一冊に「俳句」が含まれていたということは、俳句の将来が明るいような話で、とてもうれしい。

特に「中学生」をターゲットにしたシリーズではあるけれど、「岩波少年文庫」が少年少女だけのものではないように、「ジュニスタ」も幅広い世代に読まれるようになっていくのではないだろうか。

願いをこめて。

書名:俳句部、はじめました
著者:神野紗希
発行:2021/3/26
出版社:岩波書店(岩波ジュニアスタートブック)

ABOUT ME
みづほ
バブル世代の文化系ビジネスマン。札幌を拠点に、チープ&レトロなカルチャーライフを満喫しています。