WOWOWで『なまいきシャルロット』(1985)を観た。
シャルロット・ゲンズブールの青いボーダーシャツが印象的な映画だった。
青いボーダーシャツはシャルロットの象徴だった
思うに、シャルロットの着ている青色のボーダーシャツは、彼女自身の象徴だったのだろう。
子どもから大人へと成長する過程の(シャルロットは13歳)、自分の言いたいことを上手な言葉で表現することのできない、いろいろなことが中途半端な思春期の不器用な思いが、青いボーダーシャツによって表現されている。
それは、モラトリアムの象徴と言っていい。
日本やアメリカの映画にはない、独特のけだるい空気。(略)登場人物同士がたびたびこまごまと言い争ったり、主演のシャルロットはじめ、不機嫌そうな表情をした人が多いことに最初は圧倒されました。けれども次第に、海の底のもったりとした水の塊をかきわけ時間が進むようなアンニュイな気配に心地よさを覚え、物語の中へぐっとひきこまれていったのです。(甲斐みのり「しましまの思い出」)
水着姿のシャルロットもいいけれど、ボーダーに着古したデニムほど、ナチュラルに似合うものはない。
クララのコンサート衣装を借りてパーティーに参加したときのシャルロットの頼りない表情は、相棒たるボーダーシャツと切り離されたことの不安感だ。
ジャンと出かけるときも、結局、シャルロットは、いつもの青いボーダーシャツを選んだ。
自分が、自分らしい自分でいられるファッション。
シャルロットにとって、それが、青いボーダーシャツだったのだろう(もちろん、デニムとのコーデで)。
映画に出演したとき、主演のシャルロット・ゲンズブールは14歳。
この作品で、シャルロットは、セザール賞新人女優賞を受賞する。
それは、青いボーダーシャツと、履きこまれたブルージーンという、ボーイズライクなカジュアル・コーデがもたらした新人賞だった。
オーシバルとセント・ジェームスとプチバトー
バスクシャツとも言われるくらい、フランス人はボーダーが好きで、シンプルなアイテムなのに、いろいろな有名ブランドがある。
映画『なまいきシャルロット』で、シャルロット・ゲンズブールが来ていた青いボーダーTシャツは、老舗ブランド「オーシバル(オーチバル)」のもの。
オーシバルは、1939年(昭和14年)にフランスで設立され、1950年代から1960年代にかけて、フランス海軍の制服としてマリンTシャツを提供していた。
ブランド名は、フランス中部にある小さな村の名前に由来しているという。
当時、映画を観て、シャルロットに憧れたオリーブ女子は、オーシバルのボーダーTから、フレンチデビューしたらしい(なにしろ、雑誌『オリーブ』は、「リセエンヌ」と呼ばれるフランスの女子高生風ファッションを提唱していた)。
僅かなお小遣いで『Olive』や『MC sister』などのファッション誌を求め、隅々まで読み込んで、シャルロットが着ていたボーダーシャツはどうやら、1939年にフランスで誕生したマリンウェアのブランド「オーシバル」のものであるとつきとめることができました。(甲斐みのり「しましまの思い出」)
日本におけるオーシバルの知名度は、映画『なまいきシャルロット』によって、一気にメジャー級となったと伝えられている。
映画の与える影響って、やっぱりすごいな。
ちなみに、『なまいきシャルロット』の日本公開は1989年(平成元年)4月。
『なまいきシャルロット』は、バブル絶頂期の日本に上陸したのだ(オーシバルとともに)。
オーシバル最大のライバルといえば、1889年(明治22年)創業の「SAINT JAMES(セント・ジェームス)」。
フランス北部ノルマンディー地方にあるセントジェームス市の発祥で、ブランドロゴには「海から生まれた」という意味の「Né de la mer」という言葉が添えられている。
画家のパブロ・ピカソが愛用していたボーダーシャツは、セント・ジェームスのものだったらしい。
フランスで有名なボーダーシャツ・ブランドとして、もうひとつ「プチバトー」がある。
1893年(明治26年)創業の、やはり老舗で、細身のシルエットが特徴。
それぞれブランドの特色はあるが、ブランドの中でも、複数のラインナップが用意されているから、自分に合ったボーダーシャツを探す作業は楽しい。
大人で可愛いナチュラル服特別編集『シンプルに暮らす人の定番ボーダー』(2012)で、「36 Sublo(サブロ)」店主の村上幸さんは「ボーダーが似合うのは、おじいちゃんとおばあちゃん。年を重ねるほどより似合う柄だから」と、インタビューに答えている。
思春期の少女から、晩年のピカソまで、ボーダーは、老若男女問わずに着こなすことのできる、ベーシックなファッション・アイテムなのだ。
そのボーダーシャツを、シャルロットは、ブルージーンと(あるいはミニスカートと)合わせることで、思春期の少女だけが持つ中途半端な状況を表現することに成功した。
ある意味で、オーシバルの素晴らしさとも言えるわけで、こんなにすごいボーダーシャツの物語とは、滅多に出会えないだろうと思った。