ブックオフからオリジナルのレコードプレーヤーが発売される。
エントリークラスのレコードプレーヤーの世界が、ますます充実しているらしい。
ブックオフのレコードプレーヤーはお買い得なのか?
ブックオフから発売されるレコードプレーヤーの正式名称は『ポータブルレコードプレーヤーブックオフエディション』(2024年11月3日(日)発売予定)。
軽量コンパクト+スピーカー内蔵なので、アウトドアにも持ち歩くことができる(だからポータブル)。
電源は、単3電池とUSB充電の2WAY電源。
USBメモリやmicroSDカードへの録音が可能なので、レコード音源を気軽にデジタル音源に変換して、デジタルで再生することができる。
最大のポイントは、イエローとブルーというブックオフのブランドカラーを、そのまま本体デザインに採用していることで、昭和時代に流行した「赤&白のポータブルレコードプレーヤー」に負けないくらいにポップな商品に仕上がっている。
別売りのEPレコード用アダプターも、ブックオフのメインキャラクター「よむよむ君」になっていて、ブックオフをイメージしたレコードプレーヤーとして、これ以上のものはないだろう。
もっとも、「税込み9,878円」という販売価格を、高いととらえるか、安いととらえるかは、ブックオフというブランドに対する価値観にも左右されそうだ。
(別売りの『よむよむ君 EPレコード用アダプター』は「税込み1,500円」)
ドーナツ盤用アダプター込み「11,378円」という値段は、エントリークラスのレコードプレーヤーとして、格別のお買い得感は感じられないからだ。
(しかも、対応回転数は、33回転と45回転のみで、78回転のSPレコードには対応していない)
むしろ、多くのレコードプレーヤーが「10,000円前後」という価格帯で販売されている現状から考えて、ブックオフ・オリジナルのレコードプレーヤーに対する評価は、ブックオフというブランドに対する評価と直結しそうだ(ブックオフ好きは買う、的な)。
売切れ次第販売終了の限定商品なので、あるいは、キッチュなレアものとして注目される可能性はあるのだろうけれど。
【レコードプレーヤー】ブックオフオリジナル製品販売 | セール・イベント (bookoff.co.jp)
ION Audio「Archive LP」で気軽にレコードを楽しむ
村上春樹『国境の南、太陽の西』(1992)で、レコードプレーヤーは重要な小道具として登場している。
レコードを扱うのは島本さんの役だった。レコードをジャケットから取り出し、溝に指を触れないように両手でターンテーブルに載せ、小さな刷毛でカートリッジのごみを払ってから、レコード盤にゆっくり針をおろした。レコードが終わると、そこにほこり取りのスプレーをかけ、フェルトの布で拭いた。そしてレコードをジャケットにしまい、棚のもとあった場所に戻した。(村上春樹「国境の南、太陽の西」)
恋人の部屋でレコード鑑賞を楽しむこの場面は、レコードの楽しみ方を具体的に記述したものとして、すっかり有名になった。
実際、この場面を読んで、レコードを聴きたいと思った人も少なくない。
この小説が発売された1992年(平成4年)、米米CLUB「君がいるだけで」や浜田省吾「悲しみは雪のように」がヒットしていた時代、主要な音楽媒体は、すっかりとレコードからCDへと切り替わっていた。
自分の体験でいうと、浜田省吾のアルバムがLPレコードで発売された最後の作品が『FATHER’S SON』(1988)で、次の『誰がために鐘は鳴る』(1990)からLPレコードが姿を消し、CDのみの発売となった。
ギリギリまでレコード派を自認していた僕も、1990年(平成2年)からは、いよいよ、CDを買うことになった。
つまり、昭和の音楽媒体だったレコードに対して、平成の音楽媒体としてCDが生まれたわけである。
村上春樹の『国境の南、太陽の西』は、そんな時代へのアンチテーゼとして、時代遅れなレコード鑑賞の場面を、あえてじっくりと盛り込んだのかもしれない(村上春樹も43歳と若かった)。
一時期は絶滅したかに見えたレコードだが、最近は、アナログ支持からレコード人気が復活していて、1万円前後から手に入るエントリークラスのレコードプレーヤーも増えた。
普段、スマートフォンで音楽を聴いている人が、たまにレコードを聴くくらいなら、エントリークラスのレコードプレーヤーで十分で、自分も、休日にレコードを聴くときには、ION Audio(アイオン)の安いレコードプレーヤーを愛用している。
『Archive LP』というモデルなら、実売価格ほぼ10,000円で手に入るから、ブックオフのレコードプレーヤーより安い(ただし、ポータブルではない)。
使い方は簡単で、スピーカー内蔵だから、電源ケーブルさえつないでしまえば、簡単に音が出る。
本体電源の「オン/オフ切り替え」は、背面にあるパワースイッチで行う形。
トーンアームは、昇降レバーで上げ下げ(のみ)することもできるが、直接、手を使って動かした方が早い。
オートストップ機能がオンになっていると、レコードが途中で止まってしまうので、オフにしておいた方がいい。
つまり、「余計な機能は一切使わない」というのが、この手のレコードプレーヤーの正解なのではないだろうか。
RCAアナログ出力端子からコンポにつなぐこともできるから、雰囲気だけオーディオを楽しみたいという場合にも困らない(音はそれなりとして)。
同じION Audioの「Max LPシリーズ」と違って、プレーヤー本体に蓋が付いていないが、機能的にはともかく、インテリアとしては、蓋がない方がスマートでおしゃれ。
シンプルなデザインなので、レコード系ミニマリストにもおすすめ。
USBケーブルでパソコンと接続して、付属のデジタル録音用ソフト「EZ Vinyl/Tape Converter」を使うと、レコード音源をデジタル音源へと変換することも可能。
トラックごとに自動でファイルを分割してくれる機能はかなり便利で、なにより、デジタル変換した音楽ファイルを、iPhoneで聴くことができるというところがいい(レコード音源をiPhoneで聴きたければ、という話だが)。
そもそもステレオ装置に命を懸けているオーディオマニアには関係のない世界だが、気軽にレコードを聴きたいという人には、それなりの世界がある、ということだろう。
サウンドへのこだわりはともかく、配信されていないものや、(まして)CD化されていない音楽を聴くためには、レコードプレーヤーを使うしかない(そして、そのような音源は、意外と多い)。
エントリークラスのレコードプレーヤーという選択肢は、これからも、きっと重要なものとなっていくに違いない。