これは、今から10年近く昔の話である。
お正月の、初売りのような季節に、骨董店がたくさん集まっているビル(いわゆる骨董モール)で買い物をした。
ところで、最初に断っておくと、僕は本格的なアンティーク・マニアというやつではない。
小さくて小懐かしいモノを、細々と集めることに喜びを見出している、ただの雑貨好きに過ぎない。
その店には、僕の好きそうな小物がごちゃごちゃと並んでいて、その中で僕は、まるで小さな人形みたいにかわいいソルト&ペッパー入れを見つけた。
それを見つけた瞬間に「1960年代の北欧」という言葉が頭に浮かんだけれど、もちろん、具体的なことは何も分からない。
値段を訊ねようと思ってお店を人を探していたら、隣の店主(おじさん)が「今いないよ」と言った。
周りにお店が並んでいるので、こうやって外出することは珍しくないことらしい。
僕が、そのソルト&ペッパーを示すと、隣の店主は、さもつまらなさそうに「これは外国のお土産だね」と言った。
「ひとつ500円でいいよ」
特に迷う必要もなく、僕はその人形みたいなソルト&ペッパーを、全部まとめて(といっても3つしかなかったけれど)買って帰った。
部屋に帰ってから包みを開けて調べてみると、底のところに「ARABIA」(アラビア)のプリントがあった。
「ARABIA」というのはフィンランドのブランドだから、これは、やはり、北欧雑貨だったのである。
ひとまず安心した僕は、それから、このちょっと個性的な人形のデザインについて調べてみた。
すると、どうやら、これは、Esteri Tomula(エステリ・トムラ)という人がデザインした、「Lappalainen」(ラッパライネン)というシリーズのソルト&ペッパー入れらしいということが分かった。
個性的なデザインは、北極圏ラップランド地方で暮らす「サーミ民族」の衣装をモチーフにしているものだったのだ。
ちなみに、サーミ族というのは、ラップランドとよばれる、北欧スカンジナビア半島の最北部、北極圏中心(ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北欧三国とロシア)に住んでいるトナカイ遊牧民のこと。
「コルト」と呼ばれる、色彩豊かな上着の民族衣装が彼らの特徴で、地方ごとに帽子のデザインやフェルトの地色、飾り付けなどが違っているのだという。
サーミ民族の画像をネットで探してみると、かなり印象は異なるものの、衣装の特徴は確かにマッチしている。
特に、青と赤と白で構成されたデザインは、ほぼ正しく再現されているようだった。
黒い髪を長くしているのが女性で、シンプルな方が男性。
うーん、間違いなくかわいい。
アラビア製の人形(?)を入手するのは、これが初めてだったけれど、これなら蒐集する人がいたって不思議ではないと思う。
ちなみに、このシリーズの製品は、1960年から1972年までに製造されていた。
最初に「1960年代のアイテムだ」と感じた僕の直感も、あながち間違いではなかったらしい。
隣の店主は「外国のお土産だ」と言ったけれど、半分は合っていて、半分は間違っていたということだろうか。
何より、彼の値付けはまずかった。
普通に考えて、1960年代のアラビア製品が、ひとつ500円で買えるとは思われないからだ。
まあ、ヴィンテージなどといったって、興味関心のない人にとっては、そんなものだということである。