今回の青春ベストバイは、コンピレーションアルバム『URCシングルセレクション』です。
おすすめは、ずばり、友部正人の「もう春だね」。
切なくて泣きますよ。
友部正人のセカンド・シングル「もう春だね」
1993年(平成5年)の春、僕は失業者だった。
日本のバブル崩壊は1991年(平成3年)で、その翌年の1992年(平成4年)2月に、僕は、初めて就職した出版社を退職したのだ。
それは、もちろんバブル経済とは、まるで関係なんかなくって、折り合いの悪かった上司に我慢できず、入社3年目を迎える前に辞職願を出してしまったというだけの話だ。
就職活動では甘やかされて育ったバブル世代(なにしろ、史上空前の超売り手市場で、内定なんて何社でももらえた時代だ)、再就職先なんてすぐに見つかるだろうと高をくくっていたら、バブル崩壊で世の中は一変していたらしい。
塾講師のアルバイトで食いつなぎながら、失業して2回目の春を迎えるころ、僕は相当に衰弱していたような気がする。
なにより、社会のどこにも属していないという、自分の置かれた立場を認めることは辛かった。
僕の部屋には、一緒に会社を辞めた女の子が同居していて、彼女のアルバイト代の方が、僕の塾講師よりもずっと安定していたから、何とか生きていくことができるというレベルだったにすぎない。
だから、長かった北海道の冬が終わり、待ちわびていたはずの春が来たときも、僕の心は沈んだままだった。
彼女が仕事へ出かけている間(彼女は歯医者の事務員をしていた)、僕は、一人アパートの部屋で音楽を聴きながら、アルバイトまでの時間を過ごした(学習塾の仕事は夕方からだったので)。
1993年(平成5年)の春に、僕が好きだった曲は、友部正人の「もう春だね」だ。
「もう春だね」は、1972年(昭和47年)に発売された、友部正人のセカンド・シングルである。
世の中から隔絶された部屋の中で、時代遅れのフォークソングを聴きながら、僕は孤独な心を慰めていたのかもしれない。
せんたくものがヒラヒラ
くすぐったいよと身をよじらせて
風さんウフフと口を押えて
よかったよかったとからみ合ってる
とても晴れた月曜日
バスで動物園まで
もう春だね
長かった冬の荷物をおろし
イチョウの木も着物をぬいだ
わたしはわたしで良かったわ
ぼくもぼくで良かったよ
とても晴れた月曜日
バスで動物園まで
もう春だね
ぼくは今でもおぼえてるよ
冷たい雨の降る京都の春
君はひとりじゃいられなかったし
ぼくもふたりじゃいられなくて
あれからもう2年
もうずっと前の話かもね
太陽の光で顔を洗うと
ぼくの中でおはじきがはじけた
よいこらしょと背伸びをしたら
ビー玉ころころころげ出した
とても晴れた月曜日
バスで動物園まで
もう春だね
友部正人「もう春だね」
それは、長い冬が終わって、ようやく訪れた明るい春の日に、大好きだった恋人と別れる、男の子の歌だった。
「♪君は一人じゃいられなかったし、僕も二人じゃいられなかったよ~」と、友部正人は歌っていた。
なんて切ない歌なんだろう。
「♪あれからもう二年、もうずっと前の話かもね~」のフレーズへ来るたびに、僕はどうしても泣きたくなった。
それは、僕と彼女との未来を暗示しているかのように感じられる寂しさだったのかもしれない。
僕がどうにか就職先を見つけて、流氷が接岸する港町へと引っ越したのは、1993年の秋のことだ。
それこそ、「♪あれからもう30年、もうずっと前の話かもね~」と歌いたいくらいに、時の流れは速いなあと感じないわけにはいかない(トシだの何だのと言われようと)。
1990年代に復活したフォークソングブーム
ということで、今回の青春ベストバイは、1996年(平成8年)に発売されたコンピCD『URCシングルセレクション』です。
バブル時代には、これ以上ないくらいに時代遅れだったURCのフォークソングが、1990年代半ばになって、なぜか復活(NHK-BSの「フォーク大全集」の影響か)。
数々の名盤が復刻される中、このCDも、URCレコードからリリースされたシングル曲を一枚にまとめたオムニバス盤で、友部正人の「もう春だね」も、ちゃんと収録されている。
ちなみに、「もう春だね」は、オリジナル・アルバム未収録曲で、ライブ盤としても、1993年(平成5年)に発売された『ぼくの展覧会』にしか収録されていないという、かなりのレア曲だ。
1993年(平成5年)の春に僕が聴いていたのは、もちろんシングルレコードだったけれど、CDの発売が相次いだ1990年代後半には、URC関係のほとんどのレコードをヤフオクで処分してしまって、既に手元にはない。
1972年(昭和47年)5月、大阪天王寺野音(第2回春一番コンサート)にて実況録音。
とてもライブ音源とは思われないクオリティの高さには、ただ驚くしかない。
この年、友部正人は、22歳の青年だった。
でも、歌はやっぱりいいね。
今も、友部正人の「もう春だね」を聴くと、僕はちゃんと寂しい気持ちになることができる。
失業者で、お先真っ暗で、世の中から隔絶されたアパートの部屋で、一人レコードを聴いていた、あの頃を思い出しながら。