札幌は「ご当地ソング」の多い街である。
ご当地ソングとは、地域の風物詩を盛り込んで旅情を演出する歌のことで、昭和時代の歌謡曲に多く見られた。
首都圏からも遠く、エキゾチックな雰囲気の強い札幌は、様々なご当地ソングに歌われた街である。
ライラックを歌った札幌のご当地ソング
ご当地ソングには、地域の名物的な風物詩を織り込むことが普通で、札幌の場合には「時計台」や「アカシヤ」などの言葉が、頻繁に使われた。
当然、「札幌の木」にも指定され、「さっぽろライラックまつり」なるイベント名にもなっている「ライラック」を歌った歌も多いだろうと思ったら、「ライラック」という言葉を歌詞に使った「札幌の歌」は意外と少ない。
有名なご当地ソングで「ライラック」を歌ったものに『好きですサッポロ』(1981)がある。
雪の重さに 耐え抜いた 耐え抜いた
ライラックの小枝に 花が咲くころ
爽やかな風と共に訪れる
恋の気配にふりむけば
みどりに映える 赤レンガ
すきですサッポロ すきですあなた
すきですサッポロ すきです誰よりも
(森雄二とサザンクロス「好きですサッポロ」)
『好きですサッポロ』は、完全な「観光曲」だったから、札幌の風物詩が、これでもかというくらい大盛りに盛り込まれている。
さっぽろ雪まつりのテーマソングであり、テレビCMにも使われていたから、札幌市民への浸透度もすごい。
「ライラック」が含まれている有名な歌謡曲として、貴重なサンプルと言っていい。
1996年(平成8年)には、里見浩太朗と黒木瞳が『北の都の物語』を歌っている。
夜風がはこんだ ライラック
香りがふたりを 酔わせるぜ
灯りが綺麗ね 大通り
あなたとゆれてる 腕の中
今夜は帰さないよ
今夜はあなたまかせ
キララ キラ キラ
キララ キラ キラ
星降る時計台
サッポロ・恋のサッポロ
北の都の物語
(里見浩太朗・黒木瞳「北の都の物語」)
いかにもな「観光曲」で好感が持てるが、一緒に歌ってくれる女性を探すのが大変そう。
「♪アカシアの雨に打たれて、このまま死んでしまいたい~」と歌った西田佐知子に「札幌エレジー」(1965)がある。
リラの花咲き 札幌の
春はやさしく 匂うのに
別れたひとの 心は遠く
胸をとざした 悲しみの
雪は消えない いつまでも
(西田佐知子「札幌エレジー」)
ムードある昭和歌謡だが、最近ではすっかりと忘れられてしまった。
どうも「ライラック」は、昭和のご当地ソングには馴染まなかったらしい。
全国区的に見て、「ライラック=札幌」というイメージは、地元民ほど根付いていなかったのかもしれない。
藤女子大学(文学部国文学科)を卒業した中島みゆきに『リラの花咲く頃』がある(2012年『常夜灯』所収)。
リラは咲く 祖国を離れて
リラは咲く 忘れもせずに
見上げれば 空の色さえも
馴染みなき 異郷に在って
少しずつ やがては違う花のように
声も姿も 変わり果てても
時が来れば 花は香る
長い闇に 目を塞がれても
灼けつく砂に まみれても
時が来れば きっとリラは咲く
祖国を追われて リラは咲く
(中島みゆき「リラの花咲く頃」)
良い曲だけれど、札幌のご当地ソングと言うには無理があるかもしれない。
どうでもいいけれど、Wikipediaの「中島みゆき(『常夜灯』)」のページに「リラとは英語ではライラックのことを指し、中島の地元である北海道札幌市の花にも指定されている」とあるのは間違い。
「札幌市の花」は「スズラン」で、「ライラック」は「札幌市の木」である。
さっぽろライラックまつりの主題歌「ライラックのうた」
札幌の「ライラック」を歌った歌に「ライラックのうた」がある。
昭和34年(1959年)5月30日、記念すべき「第1回さっぽろライラック祭」において発表された、由緒正しき「さっぽろライラックまつり」のテーマソングである。
歌詞は公募制で(作詞:鵜沼光)、札幌在住の詩人で、ライラック祭の提唱者でもあった更科源蔵が補作した。
うすむらさきの はなぶさは
きたのおとめの ゆめににて
うれいほのかに たびびとの
おもいでにさく ライラック
うすむらさきの はなの香は
きたのおとめの ほほえみか
ひとみすずしく きよらかに
あこがれにおう ライラック
うすむらさきの はなかげは
きたのおとめの よろこびを
ひそかに告げて まちにさく
あいのすがたの ライラック
(ライラックのうた)
現在でも、さっぽろライラックまつりのオープニングセレモニーは「ライラックのうた」から始まる。
例えば、2025年(令和7年)の次第は、次のとおり。
■日 時 2025年5月14日(水) 10:30~
■会 場 大通会場6丁目(大通公園)
■次 第
〇「ライラックのうた」ミニコンサート
合唱:北海道銀行合唱団/北星学園女子高等学校音楽学科生徒一同/ホクレングリーンコール
演奏:陸上自衛隊第11音楽隊
〇記念植樹 ライラックの植樹
〇ライラック苗木プレゼント開始
・先着1,000名様
・ライラックの成木と苗木は北海道銀行からの寄贈です。
北星女子高校は、1890年(明治23年)に札幌へライラックを持ちこんだアメリカ人(サラ・クララ・スミス)が創設した学校で、ライラックは「校花(学校の花)」にも指定されている。
ライラックと古いつながりを持っているので、北星ガールズが「ライラックのうた」を歌うのは、由緒正しいものだと言える。
北海道銀行は、1959年(昭和34年)に「ライラック」を「行花(銀行の花)」に制定。
さっぽろライラックまつりにも、1959年(昭和34年)の「第1回」から協賛企業として名前を連ねているから、「北海道銀行=ライラック」のイメージは、札幌市民にしっかりと定着している。
もっとも、さっぽろライラックまつりのオープニングセレモニーは、平日の午前に行われるので、一般のビジネスマンには縁がない。
NHKのテレビニュースを観て、「ああ、今年もライラックまつりが始まったんだなあ」と、新しい季節の到来を感じるくらいだ。
「ライラックのうた」は、『政令指定都市移行20周年メモリアルコンサート《さっぽろの歌》』のCDにも収録されている。
「ライラックのうた」を聴きながら、ひとり、ライラックの季節を楽しもう。