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【三宅書店感想】三宅香帆×畠山丑雄が京大ルネで語る文学の深淵|ボケとツッコミの聖地巡礼

【三宅書店感想】三宅香帆×畠山丑雄が京大ルネで語る文学の深淵|ボケとツッコミの聖地巡礼

文芸評論家・三宅香帆さんのYOU TUBEチャンネル『三宅書店』に、芥川賞作家・畠山丑雄さんが登場した。

二人とも京都大学出身の同窓ということで、収録場所は京都大学内にある「ブックセンタールネ」。

非常に内容の濃い番組だったので、感想を残しておきたい(YOU TUBE動画の感想記事はこれが初めてです)。

収録場所は京都大学「ブックセンタールネ」

二人を知らないという人のために簡単に紹介しておくと、まず、『三宅書店』の運営者・三宅香帆さんは、現在日本で最も有名と言っていい文芸評論家の一人だ。

1994年生まれの32歳で、2024年に出版された『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(略称「なぜはた」)でブレイクした。

2025年には同書『なぜはた』で「新書大賞2025」を史上最年少で受賞し、年末にはNHK紅白歌合戦の審査員に選ばれている。

デビュー作『人生を狂わす名著50』以来、著書は多く、直近では2026年3月に淡交社から古典の名作を解説した『ニュー日本文学史』が刊行されて話題となった。

従来の文芸評論家と違って批判的なコメントをすることはなく、好感度の高い文芸評論家として、朝井リョウをはじめとする人気作家との交流も多い。

とにかく、今日本で「文学」を語るとき、いちばん最初に登場する女性、それが三宅香帆だ(ちなみに既婚者です)。

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芥川賞作家・畠山丑雄さんは、今回、『三宅書店』のゲストとして登場。

大阪府吹田市出身の34歳で、京都大学卒業後は地方公務員として働きながら、創作活動を続けているらしい(詳細は公表されていない)。

京都大学文学部在学中の2015年に「地の底の記憶」でデビューし、文藝賞を受賞。

2025年に『改元』で第38回三島由紀夫賞候補となり、2026年、「叫び」で第174回芥川賞を受賞した。

2026年4月には大阪府茨木市から市民栄誉賞を受賞するなど、今、最も注目されている芥川賞作家のひとりである。

今回はそんな二人が「三宅がゆく」のコーナーとして、京都大学「ブックセンタールネ」を舞台に、買い物しながらの対談を行った。

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ボケとツッコミの「三宅がゆく」

前々から思っていたのだけれど、三宅香帆さんはピンよりもコンビの方がおもしろいユーチューバーだ。

竹下隆一郎さんとのコンビで話題の『Page Turners(ページ・ターナーズ)』も、二人のやり取りが人気の秘密だし、『三宅書店』の「新書特集」も、集英社の新書編集部・吉田隆之介さんとのやり取りがあってこそという感じがする。

好感度の高い文芸評論家である三宅さんは、鋭いツッコミを武器としつつ、とつぜん天然ボケをかます場面もあって、そんな人間味あふれるところが、高い好感度の要因になっているのだ、きっと(京都大学卒業というエリートなインテリっぽさがまるでない)。

一方、畠山丑雄さんはビジュアルから受ける印象とは違ってバリバリのインテリで、今回の『三宅書店』でも完全に(文芸評論家である)三宅さんを圧倒していた。

京都大学時代では1学年しか違わず、互いに7年間も在籍しながら、一度の交流もなかったというほど、二人のキャラは対照的だ。

畠山さんはサッカー部一筋の体育会系で、三宅さんは京都の神社仏閣をまわるサークルと、フリーペーパーを作るサークルに所属していたという100パーセントの文化系。

そもそも読書の趣味もまるで違うから、二人のやり取りはほのかな緊張感を湛えながらも、文学を愛好する同志としての親近感が伝わってくる。

なにより、抜群のコミュ力を持つ三宅さんの(天然な)ツッコミ&ボケがいい。

【三宅】畠山さんってこう、 大阪の商人みたいな喋り方しますね。朝ドラとかに出てきそうですね。
【畠山】胡散臭いって言われてます?

芥川賞作家というか、大学の先輩に対する距離感の詰め方がハンパない。

芥川賞受賞後の『叫び』(新潮社)のポスターに使われている写真が、結婚式の前撮りで撮影した(私的な)写真だったということを聞いたときの三宅さんの反応もいい。

【三宅】待って。ちょっと嘘でしょ? これ。
【畠山】 眞鍋光太郎さんは、 ウエディングフォトグラファーの方なんです。
【三宅】おもろすぎる。待って。眞鍋さんもそんなウエディング・フォト撮ったら、芥川賞作家のアー写とか書店に飾られると思わないでしょー。1ミリも。

互いに関西の人だからなのか、ノリにリズム感がある。

畠山さんが文学部へ入学したときの動機を質問したときも、三宅さんはかなり真剣に受けていた。

【三宅】なんで文学部入ったんですか?
【畠山】僕ね、文化人類学やりたかったんですよ。
【三宅】ぽいぽいぽいぽいぽい! こういう人、文化人類学で結構いるんですよ。分かる分かると思って。

「僕ね、文化人類学やりたかったんですよ」に対する返しが「ぽいぽいぽいぽいぽい!」というのは、さすがに三宅さんだなあと納得させられてしまった。

畠山丑雄の読書世界

ところが、書店を回りながらの選書に入ると、ペースは完全に畠山さんのものとなる。

読書の趣味が違うこともあるのだが、独自の考察からゼーバルトの『空襲と文学』と古井由吉の関連性に触れるなど、文学に対する畠山さんの知識は、間違いなく膨大だ。

【畠山】こっから妄想なんですけど。古井由吉って結構、好きなんですけど。古井由吉も途中から、結構空襲の話を書くんですけど、その筆致がね、やっぱりちょっとこの『空襲と文学』頭に入ってんじゃないの?って僕は結構思うんですよ。
【三宅】なんか私、古井由吉もわかんないし、ドイツ文学もマジで苦手って思いながら生きていたので、大変勉強になります。

二人が共感し合うのは、谷崎潤一郎の『細雪』だが、畠山さんの読み方がやっぱりいい。

【畠山】結構それこそ雪子とかもね、ずっと黙ってますもん。最後「実はお前の入った後のお風呂には入らへん」って。あれめっちゃ好きですね。お前のこと汚いと思っとる、みたいな。
【三宅】ギャグ落ち的なね、ところがね。

お互いに評価しながら、それぞれ読み方が異なっているというところに、文学の奥深さが感じられる。

トルストイ『アンナ・カレーニナ』に対する接し方にも、それぞれの個性が現れていた。

【三宅】私が一番好きなシーンが、最初に夫のことを「マジ無理」って思い始めるシーンが、なんか「耳が気持ち悪いこの人」って思うっていうシーンがあって。なんか天才だなって思って。
【畠山】いいっすよね。もういちいちなんか。いちいちいいんです。僕やっぱ、みんなよく草刈りのシーンとかすごい好きですね、なんか。汗だくになって、頭空っぽになってとっても気持ちいいみたいな。

三宅さんの読み方が正統派だとすると、畠山さんの読み方は少し変化球で、このあたりが、作家と評論家との違いなのかもしれない。

トルストイ『アンナ・カレーニナ』不倫妻はなぜ鉄道自殺したのか?

二人の会話を聴いていて思うのは、畠山丑雄という作家の読書範囲の幅広さだ。

創作活動に反映させるという意味でも、幅広さは求められるのだろうが、畠山さんの読書範囲は広いし、コメントもいちいち良い。

実際的なインテリというのは、こういう人のことを言うんだろうなと思った。

畠山丑雄は、現在最も注目を集めている純文学の作家だ。

このYOU TUBE番組『三宅書店』から、畠山丑雄の読者が、また増えるのではないだろうか。

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まとめ│『三宅書店』のすすめ

今回の「三宅書店」は、畠山丑雄という作家を知る上で、非常に有意義な番組だった。

加えて、三宅さんと畠山さんとのリズム感溢れるやり取りは、過去の「三宅書店」の中でも、1~2位を争うものだったのではないだろうか(単純に観ていて楽しい)。

興味のある方は、ぜひ『三宅書店』をご覧ください。

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ジェン
文芸コラム担当。感想以上、批評未満。深読み癖あり。感想はX(@jiku_hyohon)にてお待ちしています。