夏が近くなって、最近の彼は山下達郎ばかり聴いている。
昨年購入したオールタイムベスト盤が、彼のお気に入りだった。
山下達郎を聴いていると、懐かしい青春の日々が思い出されてくる。
『RIDE ON TIME』に『高気圧ガール』、「夏だ、海だ、タツローだ!」と無暗に盛り上がっていた、栄光の80年代――。
もっとも、1980年代当時の彼は、山下達郎を聴くようなオシャレ少年ではなかった。
あの頃、彼はストリートなロックンロールを愛する陰気なパンク少年で、シティポップなんて軟弱な連中のための軟弱な商業ミュージックとしか思っていなかった。
そうだ、あの頃の陰キャな彼は、軽薄短小という言葉で象徴される1980年代という時代が大嫌いだったのだ。
当時は「陰キャ」を「根暗(ねくら)」と呼んだ。「陰キャ」の方がかわいい。
いったい、いつの頃からだっただろう、彼が好んでシティポップを聴くようになり、1980年代を懐かしく思い出すようになったのは。
『ブルータス』の「山下達郎のBrutus Songbook」特集を買ったとき、既に彼はシティポップの愛好家だった。
まるで、中学生の頃からシティポップを聴き続けてきましたとでもいうかのように、彼は骨の随までシティポップに浸っていた。
しかし、実際のところ、にわかタツローファンにすぎない彼は、ブルータスの「山下達郎のBrutus Songbook」を読んで、シティポップのシンボルとも言える山下達郎について、にわか勉強していたのである。
いつしか、すっかりとタツローファンとなり、最近の彼は、ファンキーな山下達郎が好きだった。
『ボンバー』や『FUNKY FLUSHIN’』のようなディスコ・ミュージックは、真夏に向けて彼の心をいっそう熱く燃やしてくれる。
「なんて素晴らしい音楽なんだ!」と、彼は思った。
「ディスコ・ミュージックこそ、我が青春のサウンド・トラックだ」
もちろん、1980年代の彼は、ディスコ・ミュージックなんて聴いたりしない(当たり前である)。
リアルな体験がないのに懐かしいということが、彼には珍しくなかった。
まるで、バブル世代のDNAの中に、同時代的な記憶が埋め込まれているとでも言うかのように。
そして、この夏も彼は、『ブルータス』の「山下達郎のBrutus Songbook」を愛読している。
まるで、人生のサウンド・トラックが山下達郎であったかのような大人の顔をして。
山下達郎のBrutus Songbook
2018年2月、ラジオ番組「山下達郎のサンデー・ソングブック」25周年を記念して発売された『ブルータス』の特集。
山下達郎のディープな世界を堪能できるマニアックな内容となっている。
2022年12月には、「山下達郎のサンデー・ソングブック」30周年を記念して、増補改定版が発売された。
BOMBER
「BOMBER」(ボンバー)は、1979年(昭和54年)に発売された山下達郎通算3作目(ソロとしては1作目)のシングル『LET’S DANCE BABY』のカップリング曲。
大阪のディスコからブレイクした。
アルバム『GO AHEAD!』に収録されている。
FUNKY FLUSHIN’
「FUNKY FLUSHIN’」(ファンキー・フラッシン)は、山下達郎通算5作目のシングル『永遠のFULL MOON』カップリング曲で、1979年(昭和54年)発売。
アルバム『MOONGLOW』に収録されている。
1990年(平成2年)には、少年隊のシングル曲としても発売された。
RIDE ON TIME
『RIDE ON TIME』(ライド・オン・タイム)は、1980年(昭和55年)に発売された、山下達郎の通算6作目のシングル曲。
日立マクセル「UDカセットテープ」のCMソングからブレイクした。
アルバム『RIDE ON TIME』に収録されている。
夏の山下達郎を代表するシティポップの名曲である。
高気圧ガール
「高気圧ガール」(こうきあつガール)は、1983年(昭和58年)に発売された山下達郎通算10作目のシングル曲。
「全日空リゾートピア沖縄キャンペーン」のイメージソングだった。
アルバム『MELODIES』に収録されている。