これから昭和時代の文学作品を読んでみたいという高校生におすすめの名作小説を集めてみました。
自分自身で、高校生の頃に読んでおけば良かったなあと思う作品を中心にチョイスしています。
もちろん、中学生の方にもお勧めできるし、大学生や大人の方にも読んでいただきたい作品ばかりです。
昭和の文学作品なんて、教科書以外で触れる場面も少ないかもしれませんが、時代を超えて読まれ続けている名作には、いつの時代にも通じる普遍性があります。
読書感想文の題材としても格好の作品ばかりですよ。
昭和時代は、西暦で1920年代から1980年代までと非常に長くて、時代によって文学作品の特徴も大きく異なっています。
今回は、短編小説・中編小説・長編小説、それぞれのカテゴリの中で、作品の発表年代順に並べてみました。
おすすめ短編小説
短編小説は、読書に慣れていない人にもおすすめ。
難しいことは考えず、気軽な気持ちで読んでいただければと思います。
定番中の定番から隠れた名作まで。
短編小説の世界は、意外と奥の深い世界なんです。
井伏鱒二「鯉」昭和3年
太宰治の師匠としても有名な昭和の大作家・井伏鱒二の初期の名作です。
親友からもらった白い鯉は、二人の友情の証だった—
若くして死んだ友人を悼んで書かれた友情物語です。
早稲田大学が舞台になっています。
佐多稲子「キャラメル工場から」昭和3年
昭和初期に流行したプロレタリア文学の作家として有名な佐多稲子の初期の名作です。
13歳の少女が学校をやめて、キャラメル工場で働くことになった。
劣悪な環境の中で働く女性たちの姿を冷静に描きながら、これでいいのかと、世の中に問いかけている作品です。
昭和のブラック企業物語ですね。
林芙美子「風琴と魚の町」昭和6年
奔放な女流作家として有名な林芙美子の初期の作品です。
旅暮らしの家族の姿を、小学生の少女の視点から回想しています。
広島県の尾道市が舞台。
貧しいけれど幸せだった家族の物語です。
石川淳「焼跡のイエス」昭和21年
無頼派の作家として有名な石川淳の代表作です。
焼け跡の闇市で見た戦災浮浪児に、イエス・キリストの姿を重ね合わせている主人公。
敗戦直後の日本の情景が、生々しく描かれています。
戦後の生き延びた人々の叫び声が聞こえてくるかのようです。
太宰治「トカトントン」昭和22年
昭和初期を代表する文豪・太宰治は短編小説の名手として知られています。
「走れメロス」のように誰もが知っている定番もおすすめですが、ここでは隠れた名作として名高い戦争文学の作品から。
終戦の瞬間に聞こえた「トカトントン」という音が、一生つきまとってくるという男の物語。
敗戦とは何か?ということを考えさせられる作品です。
小山清「落穂拾い」昭和27年
栞子さんが活躍する『ビブリア古書堂の事件手帖』に登場して、近年再評価が進んでいる小山清の作品です。
年老いた小説家と、古本屋の店主である若い女性との、ほのぼのとした交流を描いた物語。
読後の爽やかな気持ちが印象的です。
ちなみに、小山清は、太宰治の弟子としても有名な作家なんですよ。
小島信夫「アメリカン・スクール」昭和29年
<第三の新人>と呼ばれるグループに属した作家、小島信夫の芥川賞受賞作です。
終戦3年後、アメリカン・スクールの見学に行く英語教員たち。
進駐軍による占領下の日本で生きる日本人の悲しい姿は、ユーモラスでさえありました。
村上春樹さん推薦の名作です。
庄野潤三「プールサイド小景」昭和29年
小島信夫と芥川賞を同時受賞した庄野潤三の作品です。
優しそうな父親と母親、幸せそうな子ども。
一見平穏に見える家庭の中に潜む闇を描き出した、家族小説の名作です。
庄野潤三は、村上春樹さんもお勧めしている小説家の一人なんですよ。
石原慎太郎「太陽の季節」昭和30年
都知事・石原慎太郎の初期の人気作品です。
ボクシング部の不良高校生とお金持ちの女の子との破滅的な恋愛小説。
当時、石原慎太郎は一橋大学の学生でしたが、この作品によって一躍スターとなりました。
トレンドの若者たちは「太陽族」とまで呼ばれるようになります。
大江健三郎「死者の奢り」昭和32年
ノーベル文学賞を受賞している大江健三郎のデビュー作です。
主人公は、大学病院で、解剖用の死体を運ぶアルバイトをしています。
今でいうブラックバイトでしょうか。
大きな水槽に沈む死体と向き合いながら、生とは何か?ということを考えさせられる作品です。
野坂昭如「火垂るの墓」昭和42年
野坂昭如の直木賞受賞作品です。
戦災孤児だった少年時代の苦しい戦争体験を綴った悲しい物語。
社会から見捨てられていく兄と妹の姿に考えさせられます。
アニメ映画でも有名ですね。
村上春樹「午後の最後の芝生」昭和56年
現代の文豪・村上春樹からは、昭和56年に発表された初期の短編小説をセレクトしました。
恋人を失ったばかりの大学生が主人公なので、高校生の皆さんにも共感できる部分があるのではないでしょうか。
難しいストーリー展開はなく、どうして彼女にフラれてしまったのだろうと、思い悩む男の子の心境にスポットが当てられています。
吉本ばなな「キッチン」昭和62年
吉本ばななのベストセラー小説です。
身寄りのない女子大生の孤独と再生を描いた物語。
個性的な登場人物たちとの交流がポイントです。
川原亜矢子の主演で映画化されました。
おすすめ中編小説
短編小説よりも長いものを読みたいけれど、いきなり長編小説を読むには自信がなくて、、、
そんな方にお勧めなのが「中編小説」です。
文庫本だったら薄い一冊か、あるいは二~三作が収録されているくらい。
休日にしっかり文学と向き合いたいときにもお勧めです。
谷崎潤一郎「痴人の愛」大正13年
文豪・谷崎潤一郎の人気小説です。
小悪魔的な若い女性にメロメロになったおじさんの物語。
女の子の言いなりになって生きる男の悲しさがポイントです。
大正末期の作品ですが、昭和モダンたっぷり。
小林多喜二「蟹工船」昭和4年
日本を代表するプロレタリア作家・小林多喜二の代表作です。
洋上の蟹工船で、労働者は人間とは思われないひどい扱いを受けている—
ブラック職場で起きた実際の事件を題材にしています。
臨場感あふれる社会派小説です。
谷崎潤一郎「春琴抄」昭和8年
耽美派を代表する文豪・谷崎潤一郎の代表作のひとつです。
目の見えない女性に憧れた男性が、自ら両目を針で差して失明してしまう、、、
耽美主義とは何か?ということを、体験させてくれます。
複雑な男女の恋愛関係にも注目です。
太宰治「斜陽」昭和22年
終戦間もない日本で人気のあったベストセラー小説です。
没落貴族を登場人物として、人間の弱さを描き出しています。
没落してゆく上流階級の人々を指す「斜陽族」という言葉もトレンド入り。
太宰治は、敗戦直後の日本を代表する流行作家だったんですね(昭和23年に自殺)。
大江健三郎「セヴンティーン」昭和35年
ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎の問題作です。
17歳の少年の、性欲と政治思想の葛藤を生々しく描き出しています。
かなり倒錯気味なのも、混乱の時代故かもしれませんね。
日本社会党の委員長が右翼少年に刺殺された、実際の事件を題材にしているんだとか。
三田誠広「僕って何」昭和52年
流されるままに学生運動に参加することになってしまった大学生の青春。
主体性を持たない自分自身の存在に「僕って何?」という疑問を持ちます。
恋人や母親との関係性にも注目です。
作者の三田誠広は、この作品で芥川賞を受賞しました。
村上春樹「風の歌を聴け」昭和54年
現代の文豪、村上春樹のデビュー作です。
東京の大学へ進学した大学生が、夏休みに故郷の港町(神戸)へ帰省してくる。
行きつけのバーで知り合った<ネズミ>との友情を中心に描かれています。
当時、最高にクールでカッコいいと言われた都会派青春小説です。
村上龍「69 sixty nine」昭和62年
村上龍の自伝的青春小説です。
ベトナム戦争と学生運動で揺れる、1969年の長崎県佐世保市が舞台。
主人公は高校3年生の少年で、女の子の気を惹くために、次々と騒動を巻き起こします。
妻夫木聡の主演で、映画化されています。
おすすめ長編小説
どっぷりと文学に浸りたいという人には、長編小説がおすすめです。
週末を使って読み切ってしまうのも良し、数日かけてゆっくりと楽しむのも良し。
長編小説は、やはり読後の満足感が違いますよ。
竹山道雄「ビルマの竪琴」昭和23年
童話雑誌に連載された児童文学ですが、大人にこそ読んでほしい名作です。
太平洋戦争中のビルマ(現在のミャンマー)が舞台。
音楽好きの日本兵が、死んだ仲間たちの霊を弔うため、僧になってビルマに残るという物語です。
戦争の悲惨さを伝える戦争文学として、非常に完成度の高い作品です。
三島由紀夫「金閣寺」昭和31年
文学界のスターだった三島由紀夫の代表作です。
金閣寺の美しさに憑りつかれた学僧は、なぜ愛する金閣寺を燃やしてしまったのか?
美に憑りつかれた少年の戦後の悲劇。
芸術的完成度が高く、海外でも高い評価を受けています。
原田康子「挽歌」昭和31年
釧路出身の女流作家・原田康子のデビュー作です。
人妻に近づきつつ、その夫を寝取る若い女性が主人公。
実は人妻も若い男性と不倫関係にあって、家庭は既に崩壊状態なのですが、、、
若い女性の冷酷な部分を淡々と描き出した作品です。
開高健「ロビンソンの末裔」昭和35年
アウトドア作家としても有名な開高健の初期の名作小説です。
太平洋戦争末期、焼け跡の東京から北海道へ移住した開拓者たちの、壮絶な暮らしを描いています。
徹底した取材に基づいているので、開拓民の貧しい生活が胸に迫ってくるかのよう。
北海道の地方都市の、隠れたエピソードのひとつでもあります。
庄野潤三「夕べの雲」昭和40年
<第三の新人>庄野潤三の代表作です。
高度経済成長の時代を背景に、神奈川県生田市で暮らす五人家族の物語。
ほのぼのと温かい親子の交流が、心を癒してくれます。
ぜひ、多くの方に読んでいただきたい名作ですね。
三浦綾子「ひつじが丘」昭和41年
キリスト教を信仰したことでも有名な女流作家・三浦綾子の作品です。
教会で生まれ育った少女が、ダメな男に惹かれて結婚しますが、待っているのは苦しい日々の暮らし、、、
好きな男に裏切られたとき、主人公の女性は信仰の持つ意味に気が付きます。
酒と女に溺れる夫の残念ぶりもポイントです。
井伏鱒二「黒い雨」昭和41年
日本の原爆小説を代表する名作です。
被爆者と噂されるが故に結婚できない若い女性。
彼女が被爆者ではないことを証明しようと、主人公は原爆投下時の記録を克明にたどりますが、、、
原爆投下直後に広島を襲った黒い雨の描写が、非常にリアルです。
庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」昭和42年
庄司薫の芥川賞受賞作品です。
東京都立日比谷高校の男子高校生の一日を描いています。
学生運動の時代、高校生は何を考えていたのでしょうか。
<日本の『ライ麦畑でつかまえて』(サリンジャー)>と言われたことも。
庄野潤三「前途」昭和43年
戦争中の文学青年たちの様子を描いた青春小説です。
庄野潤三の自伝的長編小説で、文学と友情が大きなテーマとなっています。
暗い世の中で、若者たちは遠くに明るい未来を見ていた—
今の時代に読んでほしい爽やかな作品です。
渡辺淳一「阿寒に果つ」昭和46年
医師出身の作家・渡辺淳一のベストセラー小説です。
札幌南高校時代のクラスメートが主人公。
早熟な天才少女画家に翻弄される男たちが描かれています。
ちょっと大人向けの恋愛小説です。
吉村昭「羆嵐」昭和52年
テレビドラマにもなった、吉村昭の代表作品です。
開拓時代の北海道で実際に起きた事件を小説化しています。
次々と開拓者たちを食い殺す凶暴なヒグマとの人間との壮絶な戦い。
自然と人間との共存って何だろう?と考えさせられる作品です。
田中康夫「なんとなく、クリスタル」昭和55年
元・長野県知事だった田中康夫のデビュー作です(芥川賞候補作)。
ベストセラー小説で、「クリスタル族」という流行語も生まれました。
ファッショナブルな女性大生の優雅な私生活を描いています。
当時のトレンド・アイテムが固有名詞でバンバン登場しているのが特徴。
村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」昭和55年
村上龍の有名作品です。
生後間もなくコインロッカーに棄てられた出自を持つ高校生が、社会に対して復讐する物語。
複雑な家庭環境を持つ少年少女たちの数奇な運命とは?
当時は、コインロッカーへの捨て子が社会的な問題となっていました。
高樹のぶ子「その細き道」昭和58年
芥川賞受賞作家・高樹のぶ子の長編青春小説です。
地方都市から上京してきた女子大生が悩んでいるのは、年上の男性二人との三角関係。
純情な少女が、大人の女性へと脱皮していく瞬間を描いています。
伊藤麻衣子主演でテレビドラマ化もされました。
村上春樹「ノルウェイの森」昭和62年
昭和末期のバブル時代に発表された、村上春樹の大ベストセラー小説です。
東京の大学へ進学した男の子と女の子の切ない恋愛物語。
ぜひ、高校生のうちに読んでおいてください!
100%の恋愛小説です、というキャッチコピーも有名。
まとめ
以上、高校生におすすめしたい昭和時代の文学作品をご紹介しました。
傾向として、昭和前期に短編小説が多く、昭和後期に行くほど長編小説が多くなっています。
昭和30年頃まで、日本の文壇の主流は短編小説だったのですが、高度経済成長期以降、長編小説が、日本でも主流となっていく様子が分かりますね。
また、昭和前期には「純文学」が主流でしたが、戦後、純文学と大衆小説の両方の傾向を持つ「中間小説」が流行、昭和後半はエンターテインメント小説が主流となります。
ひとことで昭和時代と言っても非常に長いので、ぜひ、自分の好きな時代の作品を探してみてください。
昭和の名作を埋もれさせておくなんて、もったいないですから。